不死身の俺を殺してくれ
 煉と共に朝食を済ませ、食後のコーヒーを片手に休憩していたさくらは、突然何かを思案したように声を上げた。

「煉さん、今日は買い物に行きましょう」

「呼び捨てでいい。……お前の買い物に付き合うのか?」

「いえ、煉さ……じゃなくて、煉の新しい夏服とかを見に行こうかなーって」

 そんなことを気にしていたのか、と煉は思う。確かに此処に来て、流れで住み始めてから最初に買った服といえば、今着ている黒いジャージのみだった。

 だが本音を言えば、成るべく無駄遣いは避けたい。いざという時のために貯金は崩さず残しておきたいのだ。また何時、放浪するとも限らない。

 思考しながら壁に掛けられている時計を見上げると、時刻は午前十時半を過ぎていた。

 出掛けるには丁度いい時間帯かもしれない。それにスーパーに寄れば食材の買い出しも出来る、一石二鳥だ。

 そう結論付けると、金銭面以外で煉に断る理由は特になかった。

「分かった。なら行くか」

「はいっ!」

 昨日のほろ酔い姿は何処(いずこ)。熟睡し、すっかり酒も抜けたさくらは、煉からの了承を得ると、ウキウキとした様子で出掛けるための身支度を始めていた。

 子供か。いちいちそんなことで喜ぶな。

 そう思いながらも、煉の表情も自身が気付かない内に、無意識に柔らかな微笑みへと変わっていた。

 ◇

「いい天気ー。買い物日和ね」

 大人しくさくらの隣に並び歩く煉は、その独りごとを無言で聞き流す。さくらに促されて久し振りに外出したものの、正直に言うとあまり目立ちたくはなかった。

 何時、誰が何処で煉を見ているか解らないからだ。出来るなら前の職場の人間達に遭遇したくない。会ってしまったら、間違いなくさくらにも怪しまれてしまうだろう。

 しかし、ここ最近は実に穏やかな日々を過ごしていた。そのため、煉は本来の目的を失念していたことを思い出す。

 煉は元々この街から出て行く予定だった。だが、さくらに出会ったことにより、色々と予定が崩れてしまったのだ。

 知り合いに会わないようにと、胸裏で願いながら街中を歩く。すると、煉の視線にとある店舗が瞳に映る。
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