不死身の俺を殺してくれ

「……ん?」

「どうかしたの?」

 煉が何かに気をとられ歩道の真ん中で突然立ち止まると、さくらも同じく歩みを止めて視線をさ迷わせる。煉が一心に見つめていた先にあったのは、この街で有名な和菓子店だった。

「煉羊羮|《ねりようかん》……」

「寄って行きます?」

「良いのか?」

「はい」

 笑顔で頷いたさくらと共に煉は、真っ先にお目当ての和菓子店へ入店する。店内に入った途端に、小豆(あずき)を煮詰めたような甘い香りがふわりと鼻先を掠めた。

 煉は一足先にカウンターに近付くと、ケースの中に飾られている羊羮を、真剣な眼差しで見つめていた。

 ケースの中には羊羮以外にも、定番のお饅頭や金鍔(きんつば)等、餡を使った和菓子たちが色々と並んでいた。

「どれにするんですか?」

「やはり、煉羊羮がいいな。すまない、これを一棹(ひとさお)

「畏まりました」

 煉は商品の代金を支払い、店員から紙袋に入っている羊羮を受け取ると、満足げな表情を浮かべて、さくらに向き直る。

「付き合わせて悪かったな」

「いえ、それより煉は羊羮が好きなんですか?」

「ああ。羊羮は高カロリーで非常食にも使える万能な菓子だからな」

 大真面目に羊羮を解説する煉を、さくらは微笑ましく眺めていた。

 和菓子店に寄り道をして再び街道に出ると、今度こそ煉の洋服を選ぶために、二人は洋品店へ向かう。

 その道中だった。さくらを呼ぶ声がしたのは。

 前方から駆け足で此方に向かってくる人物が見えた。煉はその人物に対して思わず身構えてしまう。が、その必要はなかった。

「さくらさんっ!」

「えっ? 八重樫くん!? どうしたの?」

 此方に駆け寄って来た男はどうやら、さくらの知り合いのようだった。

 なんだ、この男は。さくらの男か?

 煉の眉間には、みるみるとシワが刻まれ、同時に目付きも鋭く険しいものへと変化していく。
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