不死身の俺を殺してくれ
 さくらがコンビニから帰宅すると、男は先ほどと変わらず、少しも身体を微動だにせずに静かに眠っていた。

 少しホッとしたような、そうではないような、何とも言えない気持ちになりながら、コンビニで購入した栄養ゼリーとミネラルウォーターを冷蔵庫に入れようとするが……。

 冷蔵庫内を隙間無く埋め尽くしている缶ビールが邪魔をして入らなかった。

 ……仕方ない、少し出そうかな。冷えていないビールは嫌だけど、今の季節ならさほど問題は無いよね。

 ふと、男を一瞥する。

 バスタオルと毛布くらいなら、汚れても何とかなるし掛けておこう。

 さくらは大人しく眠っている男に、厚手のバスタオルと毛布を、そっと身体に掛ける。すーすーと小さく寝息をたてている姿が、少し可愛らしく思えた。

 改めて、まじまじと男を凝視する。やはり素直に格好いいなと一人で納得しながら、慌ててその思考を脳内で否定する。

 なんか、捨て猫を拾った気分。
 ああ、疲れた。お風呂は明日にして、今日はもう寝よう。

 ◇

 翌日。

 さくらが目を覚まし、ベッドでモゾモゾと布団から出るのを渋っていると、自身の視界に得体の知れない物体が目に入る。

「…………わあああ!?」
 
「……うるさいな。何なんだ、お前は。毎回大声を出すのが癖なのか?」

 そう。さくらの目の前で、自身の顔を至近距離で近づけている男は、眉間に深く皺を寄せながらさくらを見つめている。いや、睨んでいるようにも見える。

「は? え? ……ど、どちら様ですか?」

「昨日、俺を助けただろうが。そんなことも覚えていられないほど馬鹿なのか? お前は」

 さくらは布団を深く被り、目線だけを男に移す。自分が昨日、この男を助けたのはしっかりと覚えている。彼女もそこまで馬鹿ではない。

 問題はそこではない。昨日あれだけの大怪我をしておきながら、どうしてすでにその怪我が快方に向かっているのかということだ。

「……怪我はもう平気なんですか?」

「ああ。問題ない。世話をかけたな」

「そうですか……」

 もしかすると、この男は律儀にもさくらが起床するまでの間、大人しく此処で待っていたというのか。一応、礼儀は持ち合わせているのかもしれない。

 しかし、何時までもこんな姿をこの男に晒す訳にもいかない。さくらは渋々、自身の温もりのある布団に未練を残しながら身を起こした。
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