不死身の俺を殺してくれ
「…………もしかして、お前もあれか? 男に飢えているのか?」
「……次、ふざけたこと言ったら、即警察呼びますからね」
男が大真面目な顔をして言っているのが、さらにさくらの苛立ちを加速させる。
確かに助けて欲しいとは一言も言われてませんけど、いくら何でも酷い言い様ですね。と胸裏で毒づく。
だが、そんなことを思考している内に、さくらの視界は突然、横転し自身の部屋の天井が見えた。
一瞬何が起こったのか理解が出来なかった。
「なら、むやみやたらに男を家に上げるな。こうはされたくないのだろう?」
「っ…………」
さくらは名も知らぬ男に押し倒されていたのだ。水に濡れ、まだ完全に乾いていない床から冷たい感触が背中に伝わる。捕食者のような鋭い目付きがさくらを見下ろしている。
そして男の大きな手がゆっくりと、さくらの首筋に這う。怖さか驚きか。さくらは目蓋を閉じることも出来ずに男の顔を見つめる。
「……嫌なら抵抗ぐらいしろ」
男は不機嫌そうに言い放つと、さくらの首筋に這わせていた手を退けて、少し乱暴にさくらを抱き起こす。
「最っ低な人」
さくらは男を睨みながら、そう一言するのが精一杯だった。
「……それでいい。俺にはもう近づくな」
静かに立ち上がると、男は玄関から外へと消えて行った。
折角の休日を朝から台無しにされ、恩を仇で返されたさくらはその日は、一日中怒り心頭だった。
残業で疲れた身体を酷使してまで、することではなかった。
あんな奴、助けなければ良かった。
◇
月曜日。
今日からまた、疲れた身体に鞭を打ち、一週間も仕事に励まなければならない。
土日のやけ酒が抜けないまま、どんよりとした表情をして頭痛に苛まれながら、満員電車に揺られて、さくらは会社へと向かった。
「原さん、金曜に頼んだ書類は仕上がっているかな?」
「出来ています。こちらです」