四つ子の計画書
「遅いよ真莉ちゃんっ!」
「ぐふっ」
「あ、おい音子!真莉が潰されちまったじゃねーかよ!」
「ごめん真莉ちゃーん!!」
食堂でご飯をもらい、席についた途端…後ろから抱きついてきた音子ちゃんに、押し潰されてしまった。
なんだろう、このデジャブ。
音子ちゃんに退いてもらった後、私はゆっくり起き上がる。
音子ちゃんと那奈ちゃん。
私と実莉。
そして、いつの間にか音子ちゃん達の後ろに海斗くんと彼方くんがいた。
何気に、彼方くんと顔をあわせるのは初めてかも。
「真莉ちゃんがいなくなったー!って実莉ちゃんから聞いて、私も探そうと思ったら、実莉ちゃんが『絶対に真莉ちゃん連れて戻ってくるから!!』って言って走っていっちゃったの。でも、無事で良かったよ」
音子ちゃんが肩までの髪の毛を揺らして微笑んだ。
あ……また、心配かけちゃってた。
「ご、ごめんね心配かけちゃって…」
「ううん!そこはね、心配かけちゃってごめんねじゃなくて、心配してくれてありがとう!の方が、こっちもいい気持ちになるんだよ?」
「…うん!えっと……心配してくれてありがとう」
こくっと頷いてにっこりと笑った音子ちゃん。
すると、那奈ちゃんが近づいてきて、私のご飯の器に手を添えた。
「これさ、くそまずいよ。能力活性剤みたいな、変な薬混ぜられてんの」
「えっ、そうだったの!?」
「おう…って、音子は気づいてなかったのかよ!?」
「うん…ていうか、全然まずくなかったよ。ほら、実莉ちゃんも完食してるし…」
実莉はいつの間にかご飯を食べ終えていて、口の周りについているご飯粒をぺろっと舐めて、『ごちそうさまでした!』と元気よく言った。
「お前らすごいな。俺ら食えなかったし、な?彼方」
「僕は、変な薬が入ってるっていう事実を知って食べられなくなったよ」
「真莉も食べてみな、意外とこの変なやつらみたいに食えるかも」
「変なやつらってなによー!このっ!」
那奈ちゃんの肩をポカポカと叩くも、軽々と腕を掴みあげられる実莉。
スプーンでご飯をすくい、パクっと口に入れる。
…………
…?
……っ!!
「ゲホッゲホッ」
「はい、無理だな」
「なにこれぇ……すっごく変な味」
おしかためた粘土のような……毒々な味がする。
那奈ちゃんの言うとおり、すごく不味い。
「毎日これ食わされんのか」
「うわ、絶対無理だなこんなの。」
「そういえば、皆に聞きたいことがあったんだけど」
音子ちゃんが皆を食堂の席に誘導して、座らせた。
「皆に身に付いた特殊能力ってなんだった?」
特殊能力___。
確か、『視覚完全記憶能力』という、目で見たものを全て記憶してしまう能力と…。
『聴覚完全記憶能力』という、耳で聞いたものを全て記憶してしまう能力の2つだったはず。
「俺と彼方は『視覚完全記憶能力』ってやつ。目で見たものを全部記憶するとか、便利なのか不便なのかわからねーよな」
「私は『視覚完全記憶能力』。だけど、音子は違う。『聴覚完全記憶能力』だ」
「へぇ……今から言った言葉も、全部覚えられるの?」
私は音子ちゃんにそう聞くと、笑顔で頷いた。
「そういう真莉はどっちなんだ?実莉もだけど」
「私は『視覚完全記憶能力』って方だよ。実莉は…なんだっけ?」
「昨日は熱出して寝込んでたから、検査ってやつに行けなかったんだけど、福井くんが朝起こしにきてくれて、研究室まで連れていってくれたの。私も真莉ちゃんと同じ、『視覚完全記憶能力』だよ」
「あ、ねえ実莉……福井くんってどこにいったの?」
実莉と一緒に、裏庭から施設の中の廊下を渡って現在まで、福井くんを見てはいない。
どこにいるんだろうと、少し気になった。
「うーんとね…真莉ちゃんがいなくなって…お母さんに言い返した後、私に『真莉をよろしく』って言ってどこかへ行っちゃったの。多分、福井くんが行った方向に…、『特別研究個人室』っていうのがあった気がするよ」
「『特別研究個人室』…?それって…」
「『特別研究個人室』っていうのは、ある一組の二卵性双子が利用してるって噂だ。なんでも、研究員のやつらにとって、かなり特別な研究材料らしくてな。噂じゃあ、やばいことやらされてるらしいぜ」