四つ子の計画書
届かなかった叫び
「これって…まさか……」
那奈ちゃんが紙の内容を読み上げ、体を少し震わせた。
「ひっ……」
隣で見ていた音子ちゃんも、小さく悲鳴をあげている。
私は不安になりながらも、テーブルに身を乗り出して広げられている紙に目を通す。
『双子解剖一覧』と書かれた紙は、下に表のようなものがあり、それに色んな人の名前が書かれていた。
これは……、解剖される準備が書かれているの?
ひとつずつ目を通していき、私と実莉の名前も見つけた。
那奈ちゃんや、音子ちゃん。
海斗くんや彼方くんの名前もあった。
「…これ、研究室に落ちていたのを拾ってきたんだ。能力活性剤を飲んで、個人の部屋に戻る直前のことだった。なにが書かれているか気になって、広げてみたら…。」
「…なるほどな。んで、解剖された人の名前や、これから解剖される人の順番が書かれている紙だってことに気づいたんだな」
「そういうことだ。…さっき言った、時間がないかもしれないってのは、これを見たからだ」
海斗くんはそう言って、私と実莉の名前と、自分の名前と彼方くんの名前が書かれた覧を指差した。
それを見て、言葉を失い…体が震えるのがわかった。
『長田真莉・長田実莉。解剖日時、7月8日。事情により、日時の変更の可能性有』
『桧山海斗・桧山彼方。解剖日時、7月10日。順番が前後する可能性有』
「7月って……、あと1ヶ月後?」
「あぁ…、俺達にとって時間があまりにも少ないんだ。それに……許せねぇことが一つある」
「何…?」
「ここ見ろ」
海斗くんが指を少しずらし、次に指差した場所。
『特別研究材料の指示により、No.56の解剖後、臓器売買が決定。』
嘘…でしょ……?
ガァンッ!!!
海斗くんが壁を殴り、悔しそうな表情をした。
「あいつは、福井とかいうやつは…俺らの味方なんかじゃねぇ!!真莉や実莉の臓器を売買しろと研究員に指示したんだ!!」
「そ……んな…」
「嘘でしょう…、ねぇ!!だって、福井さんは真莉ちゃんや実莉ちゃんに優しくしてたよ!それも全部嘘だってことなの!?」
「俺にもわかんねぇよ…!!でも、特別研究材料って福井のことだろ!?」
「まだそうと決まったわけじゃないでしょ!!別の誰かかもしれないし…っ」
「やめて」
「っ…真莉ちゃん」
私の一言で、海斗くんと音子ちゃんは静かになった。
…もう、いいんだ。
これが事実。所詮は、その程度の価値だということ。
「真莉、福井ってやつのことが好きか?」
「え…」
「あんなに優しくされたのが、全て偽りだったとしても、あいつが好きか?」
「私、は……」
優しくしてくれた時、助けてくれた時…、すごく嬉しかった。
だけど……、それが全て偽りだったとは信じたくない。
いつしか、私は福井くんという男の子を…恋愛対象として見ていたのかもしれない。
けど、それがあの文字で掻き消されていく。
「福井くんのことは、好き…だけど……臓器を売買するって……指示した福井くんは嫌い」
「だよな。実莉もか?」
「福井さんがそんなことするはずないもん…。それに、他の誰かが偽って、指示させたって作ったのかもしれないし!」
実莉が福井くんを庇おうと、必死に叫んだ。
「私は信じない。そんなこと…絶対に無いから」