四つ子の計画書
ドドドンッ!!
「うー……耳が痛い」
実莉と木箱の裏に隠れ、施設の人が去るのを待つ。
そっと廊下の先を見ると、血まみれの男の子が床に横たわり、施設の人は拳銃を向けていた。
「監視カメラの起動がきかないだと…?もう一度確認してこい!」
「し、しかし…操作室の鍵が中から閉められてて、入ることができない状態なんです」
「そんなもの、ハンマーで突き破ればいいだろう!早く行け!!」
「は、はいっ!!」
施設の人が話してる…。
操作室の鍵が中から閉められているってことは……那奈ちゃんと彼方くんがそうしてるってこと?
このままだと……、那奈ちゃんと彼方くんが危ない…!
どうにかして、阻止しないと!
「…真莉ちゃん、考えてることバレバレだよ。どーせ、那奈ちゃん達を守らなきゃ!とか考えてるんでしょ?」
「なっ……」
「大丈夫だよ。彼方くんは元々空手を習っていたし、那奈ちゃんは相手の心を惑わすのが得意だから。」
「相手の心を惑わす……?」
「そうそう。相手にあらゆる言葉をかけて、説得とか…何かに誘ったり?」
「やっぱり、頭がいいからかな…?」
「うーん…そうかもねっ。あ、そろそろ……あっ!海斗くん…!」
「えっ?」
行こうと立ち上がった時、廊下の先で壁にもたれる海斗くんを実莉が見つけた。
慌てて駆け寄り、海斗くんの身体を支える。
「っく……」
苦しそうな表情。止まらない血。
「海斗くんっ……海斗く……」
実莉が焦りながら、毛布で海斗くんの汗を拭き取る。
「いいから……二人とも、無事だったか」
海斗くんが腹部を押さえて、苦しそうな表情は崩さずに言った。
「何言って……それよりも、早く手当てしないと…」
「大丈夫だ。…少しすれば動けるから……」
「海斗くん……施設の人になにされたの…?」
聞きたくない。耳を塞ぎたい。
だけど、体は言うことを聞かなかった。
「お前らが言った後…、質問攻めされてただけだ。そのあと少しだけ…ナイフで腹を刺されたけどな」
「嘘…!?お願いだから…、治療室に行ってよぉ……。死んでほしくないからっ…」
必死な実莉を笑い、「大丈夫だから」と声をかける海斗くん。
「海斗くん、だめだよ。ここから出るんでしょ?そのために、昨日まで必死に脱出計画を立てていたのに…、ここで死んだら意味が無いよ」
「…そうだな。でもさ……、俺じゃなくて、あいつらを……」
「あいつら…?」
「…悪い、ちょっと眠くなってきたわ」
スッと目を閉じた海斗くんをぎゅっと抱き締めて、実莉は私を見た。
「お願い真莉ちゃんっ!!私…、海斗くんを助けたいの!だから…っ……あとでちゃんと合流するから…」
「…うん、わかった。海斗くんを治療室まで連れていってあげて。私は福井くんを助けに先に行ってるね?」
「ひっく……っ……うん……ありが………とうっ」
涙でぼろぼろになった実莉は、海斗くんを必死に担いで、もときた道を戻っていった。
正直、この先ひとりで進んで行くのはとても怖い。
私は頭が悪いし、運動神経が良いわけでもない。
だけど、今が頼りのこの『視覚完全記憶能力』で…福井くんを助けにいく。
実莉、頑張ってね。
海斗くんを助けてあげて。
海斗くん、死んじゃだめだよ。
私が言えることでも無くなっちゃうかもしれないけど……。