四つ子の計画書
次の日
休み時間中、先生に呼び出された私は、隣の空き教室に入った。
先生に呼び出されるのなんて初めてで、緊張する。
私、なにかやらかしたのかな……。
「長田さん、この前のニュースのことで落ち込んでいると思うけど…大丈夫よ。きっとすぐに帰ってこれるわ」
「え?あ、あの……なんの話ですか?」
急に言われたその言葉に、思わず顔を上げる。
ニュースで……落ち込む?
「もしかして、ニュースの内容を知らないかしら?」
私がきょとんとしていると、先生がハッとしたような表情をした。
「はい…皆が私にニュースのことを言ってきて、なんのことかなって…」
「そうだったのね…。教えてあげるけど、後悔しない?」
「すみません…そもそも、どうして私は呼び出されたんでしょうか?」
「世界に関わっていることなのよ。あ、長田さんを叱るとかそういうのじゃないからね」
「は、はぁ…」
「でも、ニュースの内容を知らないなら、まだ話はしない方が良さそうね。知らない方が身のためよ」
突然呼び出してごめんなさいね、と先生は言うと、教室の扉に手をかけた。
世界に関わっていること……。
数日後、なにかが起こるのかな……。
私は、先生のシャツの裾をぎゅっと握って引き留めた。
「あ、あの…教えて下さい!おとといのニュースで、一体なにが放送されたんですか…?」
私がそう言うと、先生は真剣な表情をして、私の方に向き直った。
「……もう一度聞くけど、聞いても後悔しないかしら?」
「はい…!約束します!」
約束できる保証なんてないけど……知りたい。
心を鬼にしてそう言うと、先生は頷いた。
「………そう、わかったわ」
そして、先生はため息をついた後、再度口を開いた。
「長田さんは、3年前から研究されていた特別感染ワクチンのことは知っているかしら?」
私は、首を横に振った。
「そう…そこまで知らないのね……。」
「えっと…すみません」
「良いのよ。最初から教えてあげるから」
「…はい」
「とある遠い街で、一般の研究員が見知らぬ樹液を手に入れたらしくてね。その樹液を研究員の1人に打ち込むと、瞬時に死んでいったの」
「樹液……?」
「そう、樹液。死んでしまった研究員を解剖し、何か変化が起きていないかなどを確認したらしいわ。そこでは、なにもわからなかったの」
「は、はぁ…」
先生は椅子を二つ持ってくると、座らせてくれた。
「そこで、ある1人の研究員がこの樹液を薬に出来ないか、と提案したらしいの。そして、すぐに薬に混ぜて出来上がったわ。実験として、研究員が薬を飲んだけど……なんの変化もなかったの」
「今度は死ななかったんですか…?」
「さぁ…どうかしらね。でも、なにも変化が無しでは作った意味が無くなるでしょう?そこで、ある一定の人間にその薬を飲ませたら……、不思議な変化があったらしいの。それはね……」
緊張で冷や汗が垂れる。
息を呑むと、先生は私をじっと見つめてこう言った。
「ある特殊能力がその人間についたの。それも、目で見たものを全て記憶するものと、耳で聞いたものを全て記憶する能力を、ね」
「っ!」
目で見たものを全て記憶する…?
お母さんの言っていた言葉が頭を過る。
もしかして、お母さんがあんなことを言っていたのは……。
「その能力のついた人間を施設に入れて研究したらしいわ。でも、たったの二人じゃ…研究もそう長くは続かないわよね。だから、先月に特別感染ウイルスが完成したの」
「特別感染ウイルスって、その樹液を入れた薬ですか…?」
「まあ、そんな感じね。厳密に言えば樹液と混ぜた薬を入れたものよ。それを、世界各地に放ち、能力者を増やして、遠い街の研究施設で研究するというのが、おとといのニュースで放送されたの」
「そんな…研究のためだけに?」
「私も、どうしてそこまでするのかはわからないわ。今言ったことは、私の推測も交えてのことよ」
「ある一定の人間って……もしかして…」
「えぇ、そうよ。____双子のみに感染する」