四つ子の計画書
「か、彼方くん!走るの速いよ!!」
「真莉が遅い」
私の数歩先を先導している彼方くんだけど、明らかに距離が出来ている。
遥さんをおんぶしているというのに、軽々と走り続けていた。
「あ、彼方くん!前に……」
施設の人がいる。そう言おうとした時だった。
グイッと勢い良く髪の毛が掴みあげられ、足が宙に浮く。
「痛いっ!!」
頭皮を押さえて、ぎゅっと目を瞑っていると頬がパチンッ!と叩かれた。
「…っ」
「…ふふ、この裏切り者。母親を見捨てた罰よ……?たっぷり痛め付けてあげるっ!!」
この声は……お母さん!?
「お母さ…ん…」
目を薄く開けて上を見ると、真っ赤に充血した目がこちらを見ていた。
髪の毛は乱れ、お母さんの体からは異臭がする。
「うっ!!」
腹部を蹴られ、咳がゴホッと出てきた。
「ねえ……私が苦しんでいるときに…どうしてあんたは平気でいられるの?どうして生きてるの?ねえ?あんたなんて生むんじゃなかったわ。父親に似て真面目な性格もうざったいし、これ以上腹立たせないで?」
「ぐ……っ!!」
髪の毛を掴む力が強まり、激痛が走る。
「あんたなんて生きる価値もないわよ!!この裏切り者!!最低女!!涼しい顔をして見殺すあんたを暴いてやる!!」
「その必要はないですよ、清子さん」
ゴキッ!!!という鈍い音が鳴ったと思えば、私の体は床にバタッと倒れた。
なに……?
頭を押さえてうずくまったまま目の前を見ると…無表情でお母さんを見つめる彼方くんがいた。
お母さんは右足を必死に押さえ、低く唸っている。
「真莉、そんなやつに構ってないで。時間がないんだから行くよ」
「べ、別に構ってたわけじゃ……。助けてくれてありがとう」
「ま、助けないと誰かさんに恨まれそうだし」
軽く笑って、床に寝転ぶ遥さんをおんぶし直すとまた走り出した。
「ねえ…お母さんに何したの?」
「は?それ聞きたい?結構グロいけど」
「やっぱり大丈夫です。」
嫌な言葉が出てくるに違いない。
「…どうしてお母さんがいたんだろう」
なんとなく呟くと、彼方くんが口を開いた。
「研究員の一番偉いやつがさ、恨みたいやつを恨めばいいとかよくわかんないこと言ってたらしいよ。
手を出せとは直接的に指示しなかったらしいけど、ただ単に、君のお母さん…清子さんが言葉の意味を誤解してたんだろうね。」
「え…どうしてそんなこと知っているの?」
「ふっ…、裏の仕事的な?」
不気味に笑い、私から視線を外した彼方くん。
「もうすぐ治療室に着くよ。」
「うん、わかった」