四つ子の計画書



ギイィ……ガチャッ。




ドアを開けた先にあったのは、いくつかの大きな木。



草が生え、中はかなり明るかった。



森の中にいるような……、私は不思議な感覚を覚えた。



よく見ると…ずっと奥に続いているようだ。



「…行くぞ」



歩き出した那奈ちゃんの後ろにちょこちょことついていく。



バタンッ、とドアが閉まり…少し怖い。




歩みを進めながら上を見上げると、そこには大きくて…綺麗な空があった。



「わあ…」



ここは地下室。




空が見えるわけがないし、これは偽物だろうけど…。



本物みたいに綺麗で、雲もゆっくりと動いていた。



綺麗と感じているのは、実莉や音子ちゃんも同じだったようだ。




そして…次の瞬間




「…っ!!福井くん!!」




目の前の光景に、思わずその名を呼んだ。



大きな水槽ボトルのようなものに入り、いろんな管を取り付けられている福井くんがいた。




見た感じ…、意識はない。




慌てて駆け寄り、ボトルをドンドン!!と叩く。



頑丈なボトル…、ただのガラスでは無さそう。




「どうしよう…、これじゃ福井くんを助けられないよ」



「下がれ。このハンマーで叩いてみる」








「乱暴は止めてくれないか。大事な研究材料に傷がついてしまう」




バンッ!!





「っ……!」




「那奈!!」




手から血を流し、床に座り込んだ那奈ちゃん。



音子ちゃんが駆け寄り、傷を押さえている。




水槽ボトルの後ろから現れた人物。



その人物に、見覚えがあった。




「あなたは……っ」




「おお、君は確か…、走って逃げた研究材料か。」




食堂で私の髪を掴み上げ、解剖をしようとした研究員だった。



白衣のプレートには『西山小波』と書かれている。




「良かったね、もう少し遅れていたらこの特別研究材料に注射を打って…木に変えるところだったよ」



「木……?どうして木になんか…」



「まあまあ、そこに突っ立ってなんかないで。座ってゆっくり話をしようよ。君達が気になっていることを洗いざらい話してあげるからさ」




「お前…、ふざけんなよ。私達は話をしに来たんじゃない。お前みたいなクソ研究員に捕まってる福井を助けにきたんだ」



「No.123の水野那奈、今の状況わかって言ってるの?私の手元には拳銃も機関銃もいくらでもあるし、君達の命を簡単に落とさせてしまう爆弾まである。




なのに、なにも知らないままそんな口聞いていいわけ?」



「……っ」





「ま、望むのなら殺してあげてもいいよ?まず誰から?」




西山小波は白衣のポケットから小さな拳銃を取り出すと、私達に銃口を向けた。




「待って下さい」





「…まあいいや、人を殺すのも飽きてきてるし。No.56の長田真莉、君と話がしたい」




「え……?」




なんで、私と話を……。




「私の可愛い可愛い息子の梨乃が…唯一気に入ってる子なんだよ。どんな子なのか非常に気になってね」




「息子……?福井くんは……あなたの息子?」





体が硬直し、目を見開いた。




福井くんが……この人の息子さんだというの…?




「そうだよ。福井梨乃は私の実の息子だ」




「は…?嘘だろ……」



「嘘なんかじゃない。ちゃんと血も繋がってるし、私の記憶の中にはお腹を痛めて梨乃を生んだ記憶がある。ビデオとか録ってないし、見せてあげられなくて残念だけど」




「そんな……」




「ふははっ!!絶望した!?研究員の母親が実の息子を研究材料にしていて!!」




「嘘でしょう…?大切な子供を殺す気!?」






「…じゃあ、聞くけどさ。君達にとって大切って何?」




大切……。




「私には大切なものなんて1つもない。幼い頃からずっと大切なものなんて作らないで来たんだ。なにも望まない…、全てが私とってガラクタ。




子は親に似るっていうだろう?私はそれを信じていたのに……、梨乃は長田真莉という人物を自分の大切なものにしていた」




「わ、たし…?」




私が福井くんにとっての大切なものなの…?



でも…、どうして?




福井くんは私を以前から知っていたということ?




だって、福井くんとはこの施設で初めて出会ったし…。



大切なものにされた記憶なんて一切ない。



困惑する私の表情を見て察したのか、西山小波は軽く笑った。



「その様子だと、覚えてないんだね?そりゃそうだ。7年前に君に打った注射の効果が、今もまだ続いているんだし」




「一体どういうことですか…?私になにか注射を打ったんですか?」



「そうだよ。せっかくだし、特別に今ここで思い出させてあげるよ。私の可愛い梨乃のためにもね」




西山小波は拳銃を下ろすと、机から小さなタッチパネルを手に取った。




そして、特別センサーであったような青い光線を私に向けた。




その途端、フラッシュバックするように忘れていた記憶が目の前で流れ出した。



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