四つ子の計画書
大切なものを失う痛み



「真莉ちゃーん、大丈夫?ボーッとしてるけど」




実莉が心配そうに私の顔を覗き込んだ。




今は実莉と私の部屋で、食事を終えた後。



「あ、ごめんね!なんでもないよ。早く寝よっ」



ポンポンと実莉のベッドを叩くと、私もベッドに入った。




「でも、小学生以来だね!一緒に寝るの!」




実莉が嬉しそうに笑うのを見ると、自然と私にも笑みが溢れる。



今日、先生からおとといのニュースのことについて説明を受けた。




どれも信じ難いものだったけど、学校からの帰宅途中、近所の人が私を悲しそうな目で見つめていて…。



逃げるように家に入ると、実莉が出迎えてくれていた。



先生は、あのあとこう言った。




『いつウイルスが放たれるかわからないわ。だけど、放たれた後は確実に長田さんにも能力がつく。異変も起こるし、すぐにこの街にも研究員の人やらが長田さん達を連れていくでしょうね。助けてあげたいけど、私にはどうすることもできないわ…。周りには気をつけて』




私だけじゃなく、実莉まで連れていかれる。




ウイルスが放たれると、すぐに広がって私達に特殊能力が現れる。



『視覚完全記憶能力』と、
『聴覚完全記憶能力』の二つ。




「ねぇねぇ、真莉ちゃん。今日のテストどうだった?難しい問題いっぱい出た?」



「ううん、案外簡単だったよ。高得点取れるかも!」




「良いなぁ…今度勉強教えて!私、全然できないから」



「うん…いいよ」



実莉が、施設に行くことを知ったらどうするんだろう。



不安しかない。





「実莉」



「んー?」




「明日誕生日だね。」




「あー!そうだね!土曜日だし、どこかお出かけしよーよ!」



「実莉はどこか行きたいところある?」



「そうだなぁ…遊園地もいいし、水族館も行きたいし…」




「水族館って、最後に行ったのお母さんの誕生日以来だね?」




「うん!イルカショー楽しかった!ストラップが欲しかったのに、お母さんがだめ!って…」




「あははっ、だってあのとき実莉のお金が残り少なかったでしょ?お母さんはそれを知ってたんだよ」



「お母さんが可愛いって言ってたものを買ってたら、お金少なかったんだもん。」




「お母さんの可愛いって言ってたものって……誕生日プレゼントのつもりだったの?」




「もちろん!あのあとにお母さんに渡してあげたの。でも、ひとつだけしか受け取ってくれなかった」




「そっか。でも、受け取ってくれただけ良かったじゃない。」




「うん!……おやすみ、真莉ちゃん」




「おやすみ、実莉」




やがて、すやすやと寝息をたて始めた実莉の長い髪の毛を摘まむ。




触り心地は私と同じだけど…見た目は全然違う。




実莉の髪の毛の方が綺麗だし、私もこんな髪の毛が良かったなぁ。




私も実莉に続いて寝ようとしたけど、目を閉じれば特殊能力や特別感染ウイルスのことについて考えてしまう。





私はもう、この家にはいられないのかな。





お母さんとも……会えなくなる。




私は首を曲げると、くるりと部屋を見渡す。




幼い頃に買ってもらったぬいぐるみや、絵本。



おもちゃがしまわれた箱が数個。



小学生の頃に使っていたランドセル。




写真がたくさん貼ってあるアルバム。




思い出が詰まったこの家から出て、慣れない施設に行くのなんて……絶対に嫌だ。




先生に言われた通り、周りには気をつけよう。




絶対にここから離れたくない。



意地でもここに留まってやるんだから。



私はそう決意すると、ゆっくり眠りについた。














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