四つ子の計画書


【7年前】




「っ……わ、私のぬいぐるみ返して…」



「あははっ、返して欲しかったらここまで来なよ!」


小学生にあがったばかりの7歳だった私は、幼稚園が同じだった男の子3人から、毎日のようにイジメを受けていた。




今もそう。私の大切なうさぎのぬいぐるみを取られている。




人目のつかない森の中…。




虫取りをするからついてこいと言われて、素直に従ったのが間違いだった。



私が背負っているリュックにはいつもうさぎのぬいぐるみを入れていたから…、きっと今取られてしまったんだ。



正直、男の子たちのところには行きたくない。




私の大嫌いな虫を体につけられる…。



「なんだよこのうさぎ!きったねー!」



「や、やめて!」



ガサッ!という音がして、男の子がうさぎのぬいぐるみを草むらへ放り投げた。



「あちゃ!ごめんやっちゃったわ~。あそこ、毛虫とかカマキリとかいっぱいいるんだよね~」



「ひ、ひどい……。こんなことするなんてひどい!」



「ひどくねーし!お前のうさぎが汚いのが悪い!」



「お前のリュックにも虫詰め込んでやる!」




「いや!やめて!!」



虫かごを片手に近づいてくる男の子から逃げようと、必死に走って逃げる。






そのうちに、どこへ走っているかもわからなくなっていた。



気がついたら、森の奥まで来ていて……。




ケータイも持ってないし、辺りはどんどん暗くなっている。




うさぎのぬいぐるみもきっと虫だらけ……。




すすり泣きながら森を歩いていると、そこで……、ひとりの男の子が木に登っているのが見えた。




乱れていない綺麗なシャツに、半ズボン。



髪の毛もサラサラで、動くたびにふわっと揺れていた。



すると、下を見た男の子と目があった。



男の子は驚いたような表情を見せると、トンっと軽く足をついて木から落ちてきたんだ。



思わず目を瞑って、ゆっくり開けるとそこにはさっきの男の子が小さく微笑んで立っていた。



「大丈夫?もしかして、迷ったの?」




「うさぎのぬいぐるみが…っ……草むらに落ちちゃって…っ」



泣きながらそう言うと、男の子は優しい声で「じゃあ、一緒に探してあげる。どこで落としたの?」と言って私の手を握ってくれたんだ。





その優しさに甘えて、男の子と一緒に私のうさぎのぬいぐるみを探した。




たまに男の子が木に登って、上から下を見下ろしたりして、15分くらいで見つけてくれた。



だけど、土で汚れてぼろぼろ。



おまけに右腕はちぎれている。



虫もたくさんついていて、思わず目をそらしていると、男の子が黙って虫を全部取ってくれたんだ。




右腕がなくなったうさぎのぬいぐるみを見つめて、涙で目が滲む。



お父さんに5歳の誕生日プレゼントで買ってもらったものなのに……。



実莉とおそろいだったのに……。





堪えきれなくなって、静かに涙をぽろぽろ流していると…隣にいた男の子が私の頭をよしよしと撫でた。




「うさぎさんの腕、治してあげよう?」


「う、ん…っ」




そのあと、手を繋いで男の子と一緒に森の奥へと進んでいった。




大きな屋敷が見えてきて、男の子は「僕の家だよ」と言っていた。



男の子は家に入れてくれて、針と糸を使って器用にうさぎさんの腕を直してくれた。



「ありがとう…!」




「どういたしまして。僕は梨乃だよ、君は?」



「長田真莉、7歳ですっ!」



お母さんが教えてくれた自己紹介の仕方。



皆の前ではちゃんとこう言うのよって、いつもお母さんは言ってる。



「ぷっ…」



「え?え?」



急に梨乃くんが吹き出して、少し困惑していると梨乃くんは涙を拭って笑顔で私を見た。



「すごいね、きちんと名前が言えて。偉い偉い」



「え、えへへ…」



頭を撫でられてほわほわしていて……。




そのあとのことは、曖昧だ。



いつの間にか気を失っていて、目を開けると病院のベッドの上で。



お母さんとお父さんが泣きながら私を抱き締めてた。



実莉も私を見ると、安心したように泣き出して…。



同い年の男の子たちと森に遊びにいくと行ったきり、夜遅くまで帰ってこなかった私を心配して、警察に捜索願いを出したと。




そして、森の奥でうさぎのぬいぐるみを大切に抱き締めて倒れている私を警察の人が見つけたらしい。




目立つ外傷もなく、発見されてすぐに意識が戻ったことで大事に至らなかった。
















そこでなぜか…、あの森での出来事や梨乃くんのことを忘れていたんだ___。




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