四つ子の計画書


【長田 真莉サイド】



全てを思い出した後、私の瞳から涙が溢れる。



どうして…、私は今まで思い出さなかったんだろう。




梨乃くんという人物を…きっと何度も思い返すはずなのに。



うさぎのぬいぐるみは今も家にあるはず。




男の子たちにちぎられたぬいぐるみの腕が、なぜか直ってあったのには驚いていた。




森の奥で私を見つけた警察の人は、既にぬいぐるみの腕はついていたと言うから…。




「これで全部思い出したよね?どう?君は大切なことを忘れ続け、反対に梨乃は思い続けていた。これ以上面白いことって無いよね!」



高笑いする西山小波は、タッチパネルを操作し、再び机の上に置いた。



そして、銃口を私に向ける。




「あ、そうそう。君が気を失っていたこと、記憶を今まで失っていた理由も教えてあげる。





私が物音に気づいてリビングに行ったら、仲良くソファーに座ってる君と梨乃がいたんだ。すぐに私は君の頭を殴って気絶させた。梨乃は驚いて君に駆け寄って抱き寄せた。そして、実の親の私を強く睨み付けたんだ。




あんな視線を私に向けてくるなんて、正直驚いたけど楽しくも感じた。




あの時の梨乃の年齢は9歳。幼い力で私を止めることも出来ずに、君は注射をうたれてしまったんだよ。その薬品は特別に作り上げたものでね、このタッチパネルを操作すると、指定した記憶を消すことができる。




あ、感謝してよ?そこで殺さずに、森に寝かせておいてあげたんだから。」





「……どうして、私をその時に殺さなかったの?」




「殺すことも考えたよ。でも、それだけは梨乃が許さなかったから殺さなかったんだ。せっかく買った拳銃が無駄になってしまったけどね」





「つまり…、真莉ちゃんは打たれた注射の効果で、今までの福井くんとの記憶を無くしていたってこと…?」



「そんな…」





「今から君に選択肢をあげる。長田真莉。






1、このまま君達全員で施設を出る。もちろん、梨乃はここに置いてね。





2、ここにそれはそれは素敵な爆弾がある。タッチパネルを適当に操作すればこの施設のどこかを爆発させることが出来るよ。もちろん、この地下室も。





つまり、言いたいことは分かるよね?君が今ここで私に殺されることを選べば、爆発は見逃してあげる。




だけど、逆に殺されないことを選べば……ここも他の部屋も全部爆発させて皆殺す。




ふふっ……さあ、どっちがいい?」





「なんだよ、それ……。どっちみち真莉が死ぬのには変わりねーじゃねぇか!」




「勘違いしないでよ。私の目的は君を殺すことだけだ。それが済めば私は今ここで自殺してみせるし、梨乃を連れて施設を出ればいい。」




「…お姉さん、それってさ…真莉ちゃんと双子の私が死ぬんじゃだめなの?」




「え…」




その声の主は実莉。




なに…いってるの。




あり得ない発言に、西山小波も驚いているようだ。




だけど、実莉の表情は真剣。




いつもの笑顔すらそこにはなかった。




「君はバカなのか?私の目的は長田真莉を殺すこと___」




「うん、だからさ。私を殺してもいいよっお姉さん」




実莉は恐れる表情も見せずに、西山小波に近づいていく。



そして、私に向けられて銃口を…実莉は自分の胸に当てた。




「なにしてる……、やめろ」




「早く撃たないと、私が押しちゃうよ」




「実莉!やめて!!」



私が叫んでも、実莉は私の方を見ない。



西山小波に顔を近づけて、不気味に笑っていた。




「お姉さん、どうして私を撃たないの?真莉ちゃんと容姿はすごく似てるよ。私を撃ってもいいんだよ?」



「お前を撃つつもりはない…!銃から手を離せ!」




「嫌だよ。だって…、今ここで銃を離したらお姉さんは福井さんか真莉ちゃんを撃つでしょう?」



「は…?」




実莉は悲しげに笑い、西山小波を見つめる。




「お姉さんさ…那奈ちゃんがハンマーで水槽ボトルの強化ガラスを叩こうとして止めてたでしょ。




それってさ、ハンマーで叩いたら割れるからじゃないの?銃で撃てば強化ガラスは割れるし、中にいる福井さんにも当たる。」





「そんなこと…」



「お姉さんって、銃の扱いに慣れてないんだよね。明らかに持つ手が震えて見えるし、真莉ちゃんを殺したいとか言ってるけど、それって嘘じゃないの?本当は誰も撃ちたくないんでしょ?」





「黙れ!!」




バンッ!!





「っ…!!」





「嘘…」






実莉に当たった……そう思った。




目を開けると、そこには座り込む実莉の姿。




だけど、どこも怪我していない。





え……?





赤く染まっていく白いワンピース。





結ばれた髪の毛がさらさらと靡き、だんだん下へさがっていく。





これ…は……。






「ナイスタイミング……だね…っ、ほんと……」




よく届いた声は、確かに遥さんのものだった。


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