四つ子の計画書
【長田 真莉サイド】
「皆、大丈夫!?出来るだけ早く!急いで!」
廊下に戻ってくると、前を走る音子ちゃんがそう叫んだ。
爆発やらなんやらで体力はほとんどない。
それに、なにも食べていない体はもうヘトヘトだった。
「あそこだ!出入口!」
そして、音子ちゃんが指差した先には…この施設に来たときに見た頑丈そうな大きな扉があった。
「……っ…」
ドテッ
「!真莉、大丈夫か!?」
足がもつれて、思わず転んでしまった。
那奈ちゃんが手を差し出してくれて、立ち上がろうとする。
ピチャッ……。
手が床につくと、ぬるっとした気持ち悪い感触が手に伝わった。
私が手をついた場所は血の海だった。
そのすぐそばには、ツインテールの崩れた女の子。
おそらく、死んでいる。
隣には全く同じの容姿をした女の子が座っていた。
生きる気力を無くし、愛する者のそばでそのまま死を待つ…。
「真莉…?」
「…那奈ちゃん、実莉が言ってたんだけど…脱出計画に反対する人は私を守るために参加してほしいって頼まれたって……本当なの?」
「………」
差し出した手を引っ込めると、暗い表情で俯いた那奈ちゃん。
「元々、死を待っていた人はその選択を飲んだの?もしかして…、私のために犠牲になった人が大勢いたりする?」
「それは……」
「教えて、那奈ちゃん。本当のこと」
言い訳とか、偽りなんて欲しくない。
本当のことを、ちゃんと伝えてほしい。
那奈ちゃんは諦めたようにうなずくと、こう話した。
脱出計画を立て始め、皆で相談していくうちに家族や友人に裏切られ…自分自身を売られて…生きる力が無くなった双子は、脱出計画に強く反対していたらしい。
そこで、海斗くんから『真莉が施設の外にいる父親に会いたいらしい』と話を聞き、那奈ちゃんはあることを思い付いたと。
それは、私の身代わりになって脱出計画に参加すること。
誰かを守って死ぬのなら、なにも悔いは残らないと。
それは実莉自身も言われたことだった。
そして、それを私本人には黙っておくこと。
ただし、なにか生きる意味を見つけたのなら、私の身代わりをやめても構わない、と。
その時はその時で、きちんと自分が生きるために脱出計画に参加してほしい、と言ったらしい。
最初では身代わりになると言っていたが、後から生きていたいと、希望を持つ人も現れて、身代わりになることをやめた人も数人いたらしい。
だけど、その人達の生死はわからない…と。
「そう、だったんだね……」
「…私、知ってたんだ。きっと、真莉はこんなこと望まないって。だから、秘密にしてた。だけど……それはだめなことだったんだな」
「那奈ちゃん…?」
こんなに暗い顔の那奈ちゃん…、初めて見たかもしれない。
まるでなにか嫌なことを思い出しているような……。
「本当に、私は……昔からだめなやつだ。音子のように正しい判断ができない」
「音子ちゃんみたいに…?」
「あぁ……もう、昔みたいにはなりたくないよ…私」
ぽたっと、手の甲に落ちてきた雫。
それが初めて見た那奈ちゃんの涙だということに気づくまで、時間はかからなかった。
那奈ちゃんは、過去になにかあったんだ。
それとリンクする出来事がなにか…?
私はゆっくりと立ち上がると、俯いたままの那奈ちゃんの手を引いて歩いた。