四つ子の計画書
ペリドット色の思い出
【2年後】
ピピピッ……カチッ。
「ん……」
むくっと起き上がり、まだぱっちりと開かない目を擦る。
んーっと大きく伸びをすると、ベッドから降りた。
なんだか、私……泣いてる?
頬に泣き跡がついていることに気がつき、頭の上にはてなマークが浮かぶ。
昨日の夜、何か夢をみた気がする。
どんな夢の内容だったかはわからないんだけど……、とても懐かしい夢。
隣のベッドを見やり、少し驚く。
「朝が急激に弱いあの実莉が自分で起きてる…」
「誰じゃそれはー!」
カコンッ!
「いててっ! 」
お玉を持った実莉に背後から頭を叩かれる。
「真莉がいつまでたってもお寝坊さんだから、今日くらいは私が起こしてあげないとねー!」
実莉はそう言ってエプロンを整えると、ふんっとどや顔で私を見た。
「今日に限らず、いつも自分で起きてほしいんだけどなぁ…」
「だって、今日は特別な日だよ!?」
「うーん…?特別な日?」
「そう!なんと……、あの山北先輩が一緒にお弁当食べてくれるんだって!!きゃー!!」
「山北先ぱ……ちょちょ!痛いって!」
お玉で肩を叩かれて、床に避けた。
山北先輩というのは、うちの高校の2年の先輩。
実莉がとても憧れている先輩で、女の子なのに運動神経抜群の男の子も負ける最強。
そして、かなりの美人さん…。
その山北先輩と実莉が友達になれたらしく、お昼休みにお弁当を食べる約束もしたらしい。
それで、楽しみすぎて今日は早めに起きてしまった、と。
実莉にとっては特別な日なのかもしれないけど、私にとってはそうでもない。
山北先輩のことはすごいと思うし、憧れの先輩だけど…。
実莉ほどではないかな、と思う。
だって、山北先輩に手作りのマフラーをプレゼントするために、実莉は手芸部にまで入ったんだよ!?
そこまでするなんてすごいなーって思う。
でも、ひとつだけ問題がある。
実莉の服はいつも、右袖を短く結んである。
そう、実莉には右腕がないんだ。
ついでに、私のお父さんとお母さんもいない。
両親は二人とも、交通事故で帰らぬ人となってしまったから。
そして、実莉も一緒にいた。
車と車が衝突し、かなりエグく潰されたんだ。
そのせいで、後部座席に乗っていた実莉の右腕がぶっ飛んでしまった。
搬送先の病院で、泣いて苦しんでいたけど…今は何事にも前向きに暮らしている。
実莉は必死に練習し、右利きから左利きに変えて。
お父さんの妹である、おばさんの元でお世話になっている。
「あ、もう学校行かなくちゃ!先輩と一緒に学校行く約束してるの!待たせちゃ悪いよー!」
そこまで約束してるんですね、すごいよ実莉さん。
苦笑しながら、部屋を出ていった実莉についていった。