冷徹部長の溺愛の餌食になりました
◇迎える 朝には
王子様の幸せを願い、泡になった人魚姫。
そんなおとぎ話の結末のように、この想いもいつか泡になって消えてしまえたらいいのに。
「あかね」
七夕のイベントがあった日曜日から、4日ほどが経った木曜日の午後。
仕事をしていた私は、馳くんに名前を呼ばれて手を止める。
顔を上げて見ると、馳くんは手にしていた箱と名簿を私のデスクに置いた。
「明日の納涼会の代金集めに来た」
「あっ、うん。今払うね」
うちの会社は、納涼会と忘年会と称して毎年7月と12月に近くのホテルのホールで社員総出でパーティを行う。
普段会えないような他の部署の人たちとも会えて、それなりに楽しいパーティで社員の参加率も高いのだけれど……。
今回はちょっと気乗りしないな。なんて思いながらも、笑顔を作ってお財布をひらく。
「あ、久我さんもお願いします」
すると馳くんが口にしたその名前に、ドキリと心臓が跳ねた。
『久我さん』、そう言いながら馳さんが見る壁際のデスクには久我さんがいる。
それがわかっているからこそ、私は顔を上げられず、お金を渡すとすぐパソコンにむかい仕事を再開させた。