冷徹部長の溺愛の餌食になりました
プールサイドに立ち、ポケットから取り出すのは以前久我さんからもらったネックレス。
手のひらのうえでそれを見つめると、照明の明かりにダイヤがキラリと輝いた。
このネックレスも、どうにかしなきゃ。いつまでも未練がましく持っていてもしょうがない。
……好きな人の幸せを願えるような人になりたい。
彼の体温も忘れて、なかったことにして、これ以上なにも望まずに。
そう思っていたはずなのに。今もこの胸は苦しくて、泣きそうだ。
「あかね」
不意に名前を呼ばれて振り向くと、そこにはスーツ姿の馳くんがいた。
彼は私を見ながらプールサイドへと入ってくる。
「馳くん。どうしたの?」
「お前がホール出るのが見えたから。酔い覚ましか?」
「うん、そんな感じ」
本当は冷ますほど酔ってもいないけれど。深く聞かれるのが嫌で、笑って頷いた。
そんな私を見て、馳くんはなにか言いたげに眉をひそめる。
「お前、彼氏となにかあったか?」
「え?」
「最近明らかに落ち込んでるだろ。わかりやすすぎ」
落ち込んでいること、気づかれていた。だけど相手が久我さんとは気づかれていないようだ。
「……まぁ、いろいろ」
うまく上がらない口角で、笑みを作って言葉を濁す。
久我さんとのこと、誰かに話せたら少しは楽になるのかもしれない。
だけど、この気持ちを言葉にしたら泣いてしまいそうだし、大切な思いを簡単に誰かに触れさせたくない思いもあって、言葉を飲み込む。