冷徹部長の溺愛の餌食になりました
日に日に暑さを増していく、五月半ばの東京の街。
それは私の勤務する会社の周りも同様で、つい先月までは桜が咲いていたオフィス街に立ち並ぶ木々も、綺麗な緑に色づいている。
大型連休を終え一週間が経ち、気だるさもようやく抜けてきた木曜日。
私は赤坂にあるオフィスビルの一室にいた。
「はい、それでは月曜日の15時にお伺いいたします。失礼いたします」
いつもよりワントーン高い声で取引先との電話を終え、仕事用のスマートフォンをデスクに置くと、ほっと安堵の息が漏れた。
「やった……やりました!先日の企画コンペ、選ばれましたー!」
先ほどの電話口での営業用の声から一転し、大きな声と両腕を上げ喜びをあらわにする。
その大きな声に室内の人々が何事かと視線を向ける中、隣のデスクの先輩社員は驚いた顔をしてみせた。
「先日のって、霧崎さんがひとりで企画考えてたやつ?すごいじゃない!」
「といってもまだまだ、調整するところも多々あるとは言われちゃったんですけど。でも企画自体は気に入っていただけたので頑張ります!」
興奮冷めやらず鼻息荒く言うと、着ていたカーディガンのそでをまくり気合を入れる。
「あはは、本当に霧崎さんは仕事楽しそうでいいね。尊敬するよ」
「はいっ、楽しいです!とっても!」
あふれ出るやる気を隠すことなく、大きく頷く私に、先輩とそれを聞いていた周りの社員たちもおかしそうに笑った。