冷徹部長の溺愛の餌食になりました
6月に入り4日が経ち、今年は例年より少し早く梅雨入りした。
どんよりとした空は今日も雨模様で、外回りを終え会社へ戻った私は、小雨で軽く濡れた肩をはたきながらオフィスのドアを開けた。
「戻りましたー」
「あかね、おかえり。外雨降ってたのか?」
「ちょうど今降り始めてきたよ。でもすぐ止んじゃいそう」
馳くんとそんな話をしながら、ハンカチで顔を軽く拭いて、自然と目は久我さんのデスクへと向く。
そこにいる久我さんは、書類を手に社員になにか指示をしている。
今日も忙しそうだなぁ。
そう思いながら見つめていると、一瞬だけ彼と目が合う。
けれど久我さんはやはり笑みひとつをこぼすこともなく、すぐ視線をパソコンへ戻した。
そっけない反応だなぁ。まぁ、いつもの彼らしいけれど。
一応恋人、とはいえ付き合ってから早くも半月が経とうとしている。
けれど、私たちの間にそれらしいことはひとつもない。
デートをしようにも、平日は帰りが遅いし、休日は互いに予定が上手く合わなかった。
だからといって仕事中にこっそりとふたりきりになったりキスをしたりなんてこともない。
そもそもそんなことを言ったら叱られるのが目に見えている。
だけどそれでも、こうして会社で会えるだけで嬉しくなっちゃうからくやしい。安い女だ。