冷徹部長の溺愛の餌食になりました
「残念ながら仕事じゃなくてプライベートの誘いだ。いいところ連れて行ってやるから下で待ってろ」
「へ?」
プライベートの誘い?
それに、いいところ?ってどこ?
彼からの突然の誘いに戸惑いながらも、この場でそれ以上追及することはできず、とりあえず私は荷物をまとめて一階のエントランスへ降りた。
少ししてから久我さんも続くようにやってきて、近過ぎず遠過ぎずの自然な距離感で並んで歩き出す。
「いいところってどこですか?」
「内緒」
先ほど聞けなかったことを改めて問うけれど、ふっと笑ってはぐらかされてしまう。
内緒、って……言い方かわいい。
ときめくうちに彼は会社から少し離れたところでタクシーを拾って、ふたりで乗り込んだ。
久我さんは運転手さんに「ここまでお願いします」とスマートフォンの画面を見せる。
ここでも私に行き先を知られないようにする徹底ぶりだ。
目的地もわからないままタクシーに揺られて、夜の街を抜けていく。
静かなタクシーの中、私は口をひらいた。
「プロジェクト、ようやく落ち着いてよかったですね」
「あぁ。あとは細かな調整をしながら本番を待つだけだ」
「イベントって確か七夕の日でしたっけ。楽しみだなぁ、絶対見に行きますね!」
久我さんが携わったプロジェクトのイベントだ。せっかくなら生で見たい。
笑ってその気持ちを伝えると、久我さんは目を細めて小さく笑った。