冷徹部長の溺愛の餌食になりました



「……久我さんだから、です」

「え?」

「久我さんのことが好きだから、些細なことがはしゃぐほど嬉しかったり、甘えてほしいとか助けになりたいとか思うんです。久我さんに認めてほしくて、仕事もいっそう頑張れるんです」



久我さんのことが好き。

だから、彼の言葉や仕草ひとつで幸せにもなるし悲しくもなる。

甘えてほしいとか、支えたいとか、笑ってほしいとか。勝手な願いを押し付けてしまう。



「欲張りだってわかってるけど、全部、私のための願いでしかないんです」



だけどそれをあなたが笑って許してくれる。

それがとても嬉しくて、笑みがこらえきれず、えへへと笑った。



そんな私に久我さんは少しあっけにとられた顔を見せた。かと思えば不意に近づいて、私の頭をそっと抱き寄せる。



「……恥ずかしいやつ」



ぼそっと彼が呟いた。

耳のそばで響く落ち着いた低い声。けれどそれとは裏腹に、頬をあてた胸からはドクン、ドクンと鼓動が聞こえた。



私だって、気持ちを言葉にするのは恥ずかしい。

だけど、久我さんに知っていてほしいから。

あなたのことがこんなに好きで、好きで、たまらないこと。



いっそう気持ちを伝えるように、その背中に腕を回す。

人目も気にせず抱きしめるふたりの横では、ガラスの向こうに街の灯りがキラキラと輝いていた。





< 54 / 111 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop