冷徹部長の溺愛の餌食になりました
触れた唇から、水と錠剤が流れ込んでくる。
突然の行為に驚き戸惑いながらも、私がそれを飲み込んだのを確認すると、久我さんはそっと口を離した。
「な、なにをいきなり……!」
「お前が言ったんだ。口移しなら飲めるって」
「冗談ですよ!」
まさか本当にするとは思わず、顔をいっそう熱くして言う私に、久我さんはおかしそうにふっと笑う。
「もう一錠あるからちゃんと飲めよ」
「結構です、自分で飲めます!」
「……かわいいこと言って煽ったお前が悪い」
そして再び水と薬を口に含むと、私に口移しで飲ませた。
先ほど同様、流れ込む水をごくんと飲み込む。けれど今度は唇はすぐ離れることなく、舌を絡め、執拗に吸い付いてくる。
「ん……ダメ、です。うつっちゃう」
「いいよ。うつせばお前もすぐ治るだろ」
短い会話を交わして、また重なる唇。
逃がさない、とでもいうかのように、その右手は私の左頬にしっかりと添えられる。
……あの夜以来の、キス。
それはきっと、彼が私を恋人として受け入れようとしてくれている証なのかもしれない。
愛しいとか、そんな気持ちは込められていないのかもしれないし、キスをしながら思い浮かべる人はあの人なのかもしれない。
だけどそれでも、単純な私はまたひとつ久我さんを好きになる。
ずっとこのまま、彼のキスに溶けていたい。
そう望んでしまう。