冷徹部長の溺愛の餌食になりました
その日久我さんは私が寝付くまでそばにいてくれて、起きたときにはすでに帰ってしまっていた。
翌朝目を覚ますとすっかり熱は下がっていて、体は軽い。
けれどいつも通りの自分ひとりの部屋がなんだか寂しくも思えた。
そんな中、テーブルに残されていた『明日も熱が下がらないようなら連絡すること』と書かれた書き置きから、彼の優しさを感じて嬉しくなった。
気を取り直し、シャワーを浴びてメイクをして、張り切って出社する途中。駅から会社へつづく道を歩く久我さんの後ろ姿を見つけた。
「久我さーん!おはようございます!」
背後から駆け寄り、その背中をバシッと叩く。
不意打ちを食らい、彼は「ゔっ」と声を出してからこちらを睨んだ。
「霧崎……すっかり元気なようでなによりだな」
「はいっ、もうすっかり!久我さんの愛の力ですねっ」
「会社でそれ言ったら部署異動どころか支社に転勤させるからな」
昨日の甘さはどこへやら。相変わらず冷たい反応だ。けどこれもまた久我さんらしいというか、なんというか。
「でも昨日は本当にありがとうございました。風邪うつってないですか?」
「あぁ。俺は元々風邪ひきにくいほうだ」
「へぇ……あ、なんとかは風邪ひかないっていうし、久我さんってもしかして」
冗談混じりにからかう私に、久我さんは笑みをひきつらせながら私の頬をつぶすようにつねる。
そんなやりとりをしていると。
「あっ……霧崎さん!」
突然かけられた声に振り向くと、そこには通勤途中といった様子の山内さんがいた。
彼の姿を見て、久我さんも私から手を離す。