冷徹部長の溺愛の餌食になりました
けれど、仕事中の彼は先ほどの通り。
愛想はないし厳しいし、すぐ怒る。
頭の回転が早く、仕事のことで少しでも言い訳をしようものなら理論攻めで叱られる。
その冷静さと、はっきりと物を言う性格は時には上司すら黙らせるほどで、社内で『魔王久我』と呼ばれ恐れられるのも納得だ。
そんな彼に対して反論をする人は限られており、中でも7つも年下で部下であるにもかかわらずすぐあれこれと反論してしまう私は物珍しい人間らしい。
普通は上司に軽口をたたくなんて、と叱られてしまうけれど、むしろ社内の一部の人からは『勇者』と呼ばれているのだそう。
勇者って……そんな大層なものじゃないんだけど。
だって、私の中には怖いとかそういう感情以上に嬉しい気持ちがあるだけ。
今もこうして、デスクに戻ってからも、頬に触れた彼の指先の感触を噛みしめるほどに。
そう、なぜなら。
私はもう一年近く久我さんに片想いをしているから。
私も最初は他の人と同様に久我さんが怖かった。
優しい人が多い部署の中で、彼には仕事のことで叱られることも多かったし、愛想もなく他愛のない話をする隙すらなかったから。
だけど、ひょんなことから彼の優しい一面を知り、本当はいい人なのかもしれないと思うようになった。
そんな彼を目で追ううちに気づいたら好きになっていて、彼の冷たさにも怯まず向かっているうちに彼も普通に応えてくれるようになった。
相変わらずそっけない態度ではあるけれど、それはもう彼の性格なのだと割り切っている。
生意気だと思われてもいい。
それでも、ほんの少しでも特別な存在になりたい。
でも、気持ちはまだ言えないままだ。
どう見ても彼が私を部下以上に見ているとは思えないし、それにもうひとつ、大きな理由があるから。