冷徹部長の溺愛の餌食になりました
好きな人が他の人と結ばれる姿を、どんな気持ちで見守っただろう。
どんなに悩んで、手にしたナイフを置いたのだろう。
それは、切なくて悲しい終わりかもしれない。
だけど私も、好きな人の幸せを願える人でありたい。
……例え、泡になっても。
その思いに、つい重なるのは久我さんと小宮山さんを見る自分の姿。
感情移入するように、切なさに胸がきゅっと締め付けられた。
あなたの幸せを願える人でありたい。そのために、いつかこの恋を終わらせなくてはいけない。
でも、今だけは。私だけの彼でいてほしい。
落ち込みそうになる気持ちを振り払って、私は久我さんの手を取り一歩歩き出す。
「さ、行きましょうか!次はなに乗りますか?」
「あぁ、そうだな」
今は、今だけは、悲しいことは考えない。せっかくのデートなんだから。
ところが、それから一時間ほどが経った頃のこと。
時刻も18時を過ぎそろそろ夜のパレードを見るために場所取りでもしようか、と考えていると、頬にぽたっと雨粒がひとつ落ちた。
「あれ……」
顔を頭上へ向けた途端、真っ暗な空からはパラパラと雨が振り出す。
「わ、降ってきちゃった」
「霧崎。こっち」
久我さんはすぐ、濡れないようにと私の肩を抱いて近くの軒下に入った。
同じように一斉に軒下に避難する人々の声を聞きながら、肩を抱く手の感触に胸がときめく。