冷徹部長の溺愛の餌食になりました
「お邪魔しまーす……」
久我さんに続いて廊下を抜けてリビングへ入る。
そこには先日と変わらず、広々とした室内にL字のソファや大きなテレビとローテーブルだけのよく片付いた部屋だ。
「適当に座ってくれ。今浴槽にお湯ためるから、できたら入れ」
「えっ!いえ、まずは久我さんが!」
「なに言ってんだよ。雨で濡れたし、お前この前熱出したばっかりだろ。早く温まれ」
反論の余地もない言い方をする彼に、おとなしく従うことにした。
「あとこれ着替え。服洗濯しておくから、とりあえずこれ着ててくれ」
「あっ、すみません。ありがとうございます」
久我さんから黒いTシャツとジャージのズボンを受け取ると、少ししてお風呂が出来上がった音がして、私は浴室へと向かった。
浴室も綺麗に整頓されており、細かいところまで掃除が行き届いている。
家が全体的に片付いているし、もしかしたらハウスキーパーでも頼んでるのかもしれない。
そんなことを考えながら大きな湯船につかった。
「ふー……あったかい」
やはり雨で体が冷えてしまっていたようだ。お湯につかると、体の芯から温まるのを感じた。
お言葉に甘えて、久我さんの家に来て、さらにお風呂まで借りちゃってるけど……よかったのかな。
形だけの恋人とはいえ、家に大人の男女がふたりきりとなればなにが起きてもおかしくない。
……もしかしたら、久我さんと二度目の夜もありえる?
なんて!ちょっと期待してしまう自分が恥ずかしい!
落ち着け、目を覚ませ、というようにお湯で顔をバシャバシャと洗う。
……いや、ないか。
1回目は彼も酔っていたし、勢いもあっただろうし。今の冷静な彼が、好きな人以外を相手にするとは思えない。
そうだよ。変に期待しすぎるのはやめよう。
あとで現実を知って、つらくなるだけだから。
心の中で自分に言い聞かせると、私は髪や体を洗ってお風呂を出た。
借りたTシャツに袖を通すとやはり少し大きく、半袖のはずが7分丈くらいになった。