冷徹部長の溺愛の餌食になりました



「お昼ごはん買ってきまーす」



その日の昼休み。私はビルの1階にあるコンビニへ向かおうと、第一営業企画部のオフィスを出た。



今日はごはんよりパスタの気分だ。デザートにはなにを食べようかな。

コンビニの棚のラインナップを思い出しながら、お気に入りの花柄スカートの裾を揺らしながら廊下を歩く。

すると、前方には廊下の真ん中で立ち止まる姿が見えた。



グレーのスーツを着た、黒髪の後ろ姿……あれは久我さんだ。

久我さんもごはん買いに行くのかな?もしいけそうだったら、勇気を出して、ランチとか誘ってみようかな。



「久我さ……」



近づきながら声をかけようとした。

けれど彼の視線の先を追いかけ、ひとりの姿を捕えると喉が詰まったように声が止まる。



彼が見る先には、扉が開いたままの会議室。

ちょうど会議を終えたところらしく、中からは数名が出てきている。



その部屋の中、社員に囲まれる黒髪の女性に、彼の眼差しは向けられていた。



……あの人のこと、また見てる。

その視線の意味を察すると、胸にチクリと棘が刺さった。



痛みに顔が歪みそうになるのを堪えながら、私は再び久我さんに近づくと、隙だらけのその脇腹を指で突く。



「うおっ!?」



彼のくすぐったいところにちょうど入ったのか、久我さんは間抜けな声をあげながら、手にしていた資料を落とした。



バサバサと床に資料が散らばる音に、社員たちは何事かとこちらを見る。

その視線を浴びながら振り向く彼は少し恥ずかしそうで、思わずニヤリと笑ってしまった。


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