冷徹部長の溺愛の餌食になりました



「すみません、お風呂、ありがとうございました」

「あぁ。じゃあ俺も入ってくるから」



半乾きの髪をタオルで乾かしながらリビングへ戻ると、入れ替わるように久我さんは浴室へ向かう。

リビングにひとりきりとなった私は、とりあえずソファの端にちょこんと座った。

テレビもついているけれど、緊張から全く内容が頭に入ってこない。



そわそわしちゃって落ち着かないなぁ……。

じっとしていられず、私は立ち上がるとなんとなく室内をぐるりと見回した。



すると、壁際に置かれた白いキャビネットが目に入る。

近づいて見ると、私の胸元くらいの高さのそのキャビネットの上にはフォトフレームが飾られていた。

卓上カレンダーのようなめくり型のフォトフレームは、おしゃれでこの部屋の雰囲気にひっそりと馴染んでいる。



久我さん、写真とか飾るタイプなんだ……イメージないなぁ。

そう思いながら手に取ると、そこには今より少しだけ若い久我さんの姿があった。

一緒に写っているのは、他の部署で見たことがある先輩たちだ。おそらく久我さんと同期なのだと思う。



この久我さん、私と同じくらいの歳かな?

今より髪もやや短くて、ちょっとかわいい。写真でも相変わらず無愛想な顔してるなぁ。

初めて目にする過去の彼に、思わず顔がゆるむ。



「なに見てるんだよ、変態」

「わ!?」



すると突然背後から声をかけられる。驚き振り向くと、そこには黒い髪を湿らせたTシャツ姿の久我さんがこちらを見ていた。



「お、お早いですね……」

「いつもこんなもんだ。長風呂はあんまり好きじゃない」



彼はそう言うと、勝手に室内を見ていたことについてはなにも言わず、寧ろ一緒に写真を覗き込んだ。


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