冷徹部長の溺愛の餌食になりました



……やだ、聞きたくない。

そんなに楽しそうに彼女の話をしないで。彼女の名前を口にして笑わないで。

目の前にいるのは私のはずなのに。彼女の影が、ちらつく。



いやだ、やだ。聞きたくない。

今にも耳を塞ぎたい気持ちでいっぱいなのをこらえて、拳をぎゅっと握る。



すると久我さんは、なにを思ってか一度言葉を止め、少し考えてからまた口をひらいた。



「あと実は、言ってなかったんだけど俺――」



意を決して切りだす言葉。

その先のセリフがなにかなんて、簡単に想像ついてしまう。

だからこそ、聞きたくない。



久我さんが言いかけたその瞬間、私はアルバムを手放して、両手でその口元をおさえた。

それはまるで、それ以上言わないでと言葉にするよりわかりやすく。



バサッとアルバムが床に落ちた音に我にかえると、目の前では私に口元を塞がれて驚いた顔をする久我さんがいた。



「す、すみません!私いきなり……あっ、アルバムも落としちゃってごめんなさい!」



慌てて謝ると、その口を塞いでいた手を離す。

ところが、久我さんは私のその手をそっと掴んだ。



突然手を掴まれて戸惑う私を、彼はじっと見つめる。

そしてふっと笑って、私の手のひらに触れるだけのキスをした。


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