冷徹部長の溺愛の餌食になりました
「きれい……でもいいんですか?私、誕生日でもないしなんの記念日でもないのに」
「別に、贈り物をするのに『贈りたい』以外の理由なんていらないだろ」
久我さんはふっと笑うとケースからネックレスを取り出し、それを私の首につけた。
「俺は自己犠牲の精神なんて持ち合わせてないから、人魚姫の話に感情移入なんてできないけどな」
「確かに、久我さんらしいです」
鼻で笑って一蹴するところがまた彼らしい。くすくすと笑う私に、彼は鎖骨の間に輝く飾りを指先で撫でた。
「俺は好きな人の幸せを願うより、自分の力で幸せにしたい」
真っ直ぐな瞳で見つめながら言い切る。
それは泡になるという選択でも、ナイフを刺し命を奪う選択でもない。
彼に想う人がいたとしても、自分の想いを伝えるということ。
彼らしい強くはっきりとした答え。
その考えが好きだと想うと同時に、切なさが胸を締め付ける。
いいな。だって、彼が自分の力で幸せにしたいと思うほど好きなのは私じゃないから。
「……久我さんにそこまで想ってもらえる人は、幸せですね」
私では、そんな存在になれないから。
その言葉が向けられる先にある、あの人の姿を想像すると泣きそうになる。
涙をこらえて久我さんを見つめると、彼は私の頬にそっと手を添えて顔を近づけ、ゆっくりとキスをした。