冷徹部長の溺愛の餌食になりました
部屋を出ると、ひとつ上のフロアにある経理部に向かって廊下を歩く。
頭には、あの日の小宮山さんを呼ぶ久我さんの声が浮かぶ。
今の幸せに浮かれて満足してたけど……私、このままでいいのかな。
久我さんに『本当は彼女の代わりに抱かれただけなんです』って、『だから久我さんは責任を感じる必要はないんです』って、本当のことを言わなくていいのかな。
言わずにいればきっと、優しい彼は私を恋人として受け入れてくれる。
だけどそのままで、彼の胸からいつか彼女の存在が消えることはあるんだろうか。
私、ずっと代わりのままでいいの?
自分自身を、見てもらえないままで。
その時、廊下の角から現れた人と思い切りぶつかってしまう。
「ひゃっ!」
その人の腕に思い切り鼻をぶつけてしまい、驚きのあまり手から離れた書類がバサバサと廊下に散らばった。
「いったぁ〜……」
「あっ、ごめんね!?大丈夫!?」
あまりの痛みに鼻をおさえながらうずくまると、その人は慌てた声を出した。
あれ、この声は……。
顔を上げると、焦った顔で私を見るのはロングヘアの美女――そう、小宮山さんだった。
まさか、彼女の話題から逃げてきたのに、その本人にぶつかってしまうなんて。
戸惑い目をそらす私に、彼女はぱっちりとした二重の大きな目で私の顔を覗き込む。