冷徹部長の溺愛の餌食になりました
「本当にごめんね!思いっきり腕ぶつかっちゃったよね、鼻血出てない?」
「だ、大丈夫です……こちらこそすみませんでした」
本当はかなり痛いけれど、それをこらえて自分も謝る。すると小宮山さんは、こちらをまじまじと見てふと気づいた。
「あれ、もしかしてあなた……清人の部下の」
「あ……はい、霧崎と申します」
私の名前を聞いて、なにかピンときたように笑った。
「そっか、あなたがあの『勇者』と名高い霧崎さん!いろいろ大変だろうけど頑張って!目指せ、魔王討伐!」
小宮山さんは綺麗な顔に似合わず大きく口を開けて豪快に笑いながら、私の背中をバシバシと叩いた。
魔王討伐って……面白い人。
美人な見た目や仕事ができること以上に、その明るさが、彼女が慕われる一番の理由だと実感した。
こんなにいい人なら、久我さんが好きになるこも納得だ。そう思うとまた、胸の奥に棘が刺さる。
……私じゃ、勝てない。
見た目も、仕事も、性格も。
わかりきっていたのに、彼女を目の前にしてさらに現実を突きつけられた気分だ。
勝てない、だからこそ彼の責任感につけ込んで恋人の立場にいる。
そんな自分が惨めで、泣きそう。
涙を堪えるように下を向くと、なにも知らない小宮山さんは不思議そうに顔をのぞきこむ。
「えっ?どうしたの?やっぱり鼻痛い?」
優しい声が、余計自分を惨めにさせる。
「どうかしたのか?」
するとそこに響いたのは、ちょうど通りがかった様子の久我さんの声だった。