優しく、強く
それから秋が来て冬が去っていった。先生と私は何も変わりなかった。
 授業をする先生とそれを真面目に受ける私(たまに寝てしまったことは内緒だ)
 何も変わりはない、そう思っていたのは多分先生だけだろう。私の心は少しだけ先生に寄せられていた。
 他に用があって職員室に行ったはずなのになぜか先生を探してしまう。居たら少し気分が上がりほんの少しだけ速くなる鼓動を無視し職員室に入り用事を済ます振りをして先生を盗み見る。
 目が会うことはたまにあった。でも先生は最初の授業の頃みたいに自然に目線を下にし、まるで最初から目が合ってないかのように仕事に戻る。私はショックを受けない。それでいい。そんな先生がいいのだ。
 先生は忙しい人なのか職員室にいない時のが多い。そんな時どこに行ってるのか私は知らない。少しだけ知りたいという気持ちもある。でも授業以外校内で先生を見たことはなくごく稀に廊下を歩いてるのを見るぐらいだ。知りたいけれど聞いてしまったら私が先生のことを気にしてるのがバレてしまいそうで聞けなかった。
 そんなことを考えているうちに二年生が終わろうとしていた。最後の数学の授業はいつもと変わらない。淡々と進んでいき目があっても何事もないようにそらす先生。私はふと名前を覚えてもらってるのか気になり先生を見つめた。(先生は目があった人を当てることが多いのだ)案の定、目があう。先生は名簿を見ずに私の名前を呼んだ。未だに当てる前に名簿を見て名前を言う子もいるのだ。そんな中先生は私の顔を見て名前を呼んでくれた。それがすごくすごく嬉しくて思わず元気よく返事をしてしまう。先生は少し驚き誰にも気づかれないぐらい小さく静かに笑った。私は先生をガン見していたので笑ったことに気づいてしまう。そんな私に気づいたのかしまったという顔をして咳払いをし「ではユキさん、答えてください。」と真面目な声で言った。私は慌ててノートに目を落とし先生に答えを告げる。「はい。正解です。よくできましたね。」
 先生に褒められたことが嬉しくて私の胸はまた高鳴った。
 
 そんなこんなで二年生が終わり三年になった。
新しい教室で授業日程と担当の先生が書かれたプリントが配られる。そこに高井という字はない。ショックだった。すごくすごくショックだった。もう一生先生に会えないんじゃないかとさえ思った。大げさもしれない。でも私は結局職員室にいないとき先生がどこにいるのか知らないままで二年生を終わらせてしまったから同じ学校にいたって会えない日のが多くなってしまうことは事実だ。あの時辺なプライドなんか持たずに素直に聞けばよかった。「先生の居場所は職員室以外だとどこですか?」って。
 案の定先生とは会わない日が続いた。噂だと二年生の授業を持っているらしい。羨ましい。と素直に思った。去年の自分がどれだけ幸せだったかを過去に戻って教えてあげたいくらいだ。そんな日が続いた中私は職員室に用事ができ行くことになった。先生がいるかもしれないと思うと少し胸が高鳴る。
「失礼しまーす」浮かれている気持ちを隠すように少し気だる気にそういい私は職員室に入る。用がある先生の所に行きながら職員室を見渡す。
 いた。先生だ。見つけた瞬間心拍数が上がった気がした。あまりにも久しぶりだったので思わず見つめてしまう。そんな視線に気づいたのか先生はパソコンから顔を上げて前を見る。目があった。その瞬間私はただでさえ上がっていた心拍数がさらに上がったことに気づく。周りの人に聞こえてしまうんじゃないかってくらい大きく心臓がなる。思わず目をそらしてしまった。それはあまりに不自然に。やばい。ばれた。そう思ったと同時に焦り私は用事をさっさと済ませ足早に職員室を出た。そこから教室までどうやって帰ったかあまり覚えていない。ただ目をそらしてしまったあと先生がどんな顔をしていたのかそれだけが気になって仕方がなかった。
 
 その後先生とはたまに廊下ですれ違った。でも何もなかった。本当にそれは自然に、私のことなんか忘れてしまってるんじゃないかってくらいに先生は「こんにちは。」とだけ言い過ぎ去っていった。
腹が立つ。見向きもしてくれない先生に対して、先生に話しかけれない自分に対して腹が立って仕方ない。
 そんな気持ちが最上点に達した私はついに先生に話しかけた。
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