最後の初恋
◇ プロローグ

 いつも一緒に競い合ってきた奴がいる。
 物心ついた時から、俺たちは白銀の世界を自由奔放にはしゃぎ滑ってきた。
 ふかふかの雪に直滑降で突っ込んだり、冒険のつもりが森林で迷子になったりとか。
 いつも滑りまわっている隣にはそいつの溢れんばかりの笑顔があった。
 俺はその笑顔と、雪山を駆け巡ることが大好きだった。
 いつの間にかフィールドはレーシングになり、俺たちはタイムを競い合いだした。
 そいつは小学生の時から既に実力を発揮し、中学では全国中学校大会で、2種目で優勝するほどになっていた。
 そいつは何をやっても卒がなくレーシングにおいて、俺はとても敵わない相手である。
しかし、ある日を境に俺の方が速く滑るようになったのである。
 幼少の時から、レースでは一回も勝った事がなかったのに。
 そいつは特に体力的に恵まれているということもない。むしろ俺の方が体力的には有利である。
 ただ、そいつには途轍(とてつ)もない武器があったのだ。
 それは、どんな時でも『お前はアホか』と思うくらいの明るくポジティブな考えの持ち主なのである。
 そう、例え自分が死ぬかと思う場面においても、明るさとブレのない考えを持ち寸分たりとも迷いがないのである。
 そんな奴に、迷いばかりの滑りの俺がスキーレースで勝てる訳がないのは当然といえばそれまでなのだが。
 しかし、この冬から俺は奴のタイムを上回るようになってしまった。
 これまで悔しくて、どんなに練習をしても、どうあがこうとも一勝たりともできなかった奴のタイムを上回ってしまったのである。
 しかし、少しも嬉しくない。
 ただそれは時間の問題でそうなったことで、決して俺が勝ったからではないからだ。
 一つに俺の体が、今年高校に入り明らかに奴との体格差が出たこと。
 二つ目に使うスキー板が違うようになったこと。
 それは高校よりスキー板のレギュレーションにより、男と女とでは使う板の規定が違うからである。
 そう、俺が競ってきたのは女。
 どうしようもなく能天気で、アホみたいにポジティブな

 ―――深山(みやま) 彩(あや)菜(な)である。
< 1 / 15 >

この作品をシェア

pagetop