最後の初恋
第2章

◇ 別れ

 放課後、何時ものように俺はジャイアントスラローム(GS)のバーンに貼りついている。
 たまには得意のスラローム(SL)も滑りたいのだが、そうは甘くは無いようだ。
 GSは不得意と完全に見抜かれている。
 今日もコーチから『積極的に体を落とし込んで来い』と何時もと同じ指導と、隣のSLバーンからは『ヘタレ―――――― !』と怒号が飛んでくる始末である。
 俺だって何の考えも無しに毎回滑っている訳ではない。
 毎回指摘される『体を落とし込む』という運動も物理的に理解している。
 落下物の重心はその真ん中になければならない。重心の心(、)が負けているから『体を落とし込む』ことが遅くなるのである。
 テクニックも必要であるがむしろメンタルの部分が大きい。
 とは言え、実際に指摘される旗門の設定場所はどう考えても危険な場所だ。
 コースの左右が狭くなり、コースサイドに防御ネットは張ってあるが、そこを通過する時の速度はコースアウトをすれば、簡単にネットは破れてコース外に吹っ飛んでいくであろう。
 しかもネットのすぐ外には立派な立木が並んでいる。
 トップスピードで激突すれば最悪の事も考えられる。
『体を落とし込む』とはターンが終わり、次のターンに向けて上体を斜面真下に移動することである。
 イメージ的には、斜面真下に向けて頭から飛び込むイメージだ。しかも急斜面の真下にだ。
 そこで百分の数秒レベルでも遅ければ当然旗門を抜けるタイムが遅くなる。
1旗門を抜けるタイムの遅れが仮に0.1秒でも、50走旗あれば5秒の差が出てしまう。
 それではレースで勝てない。
 だからインターハイに向けて今目の前にある壁は乗り越えなければならないのである。
 それに彩菜からのヘタレ扱いも、そろそろ勘弁願いたい。
 今日の旗門の設定では6走旗が左右に大きく振られるセットになっている。
 ちょうど、このコースが一番狭くなる所だ。しかも立木もネットのすぐ外に並んでいる。恐怖心を煽るように立ちはだかっている。
 どうやら腹を括る時が来たようだ。いつまでも逃げていられない。いや、これまでだって攻めていたつもりだ。しかし自分の体が一番分かっている。爽快感がない。逃げていると。
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