最後の初恋
 そう意気込んでジャイアントスラロームの練習バーンに突入した。

 この練習バーンの斜面構成は出だしが中斜面ですぐに急斜面になる。しかもこの急斜面が途中で捻じれていて片斜面になり曲者だ。更に急斜面の終わりから右に大きく曲がり、緩斜面へとつながりフィニッシュである。
 今のコースがジャイアントスラロームで、このコースの隣の中腹の急斜面よりスラロームのポールが立てられている。
 練習バーンというだけあって、難しい設定だ。
 この斜面を自分の意図通りに滑ることが出来ればどんな斜面でも対応できるだろうと、顧問の先生が言う通り、試合で他のコースを滑っても対応はできるくらいこのコースはハードな設定になっている。
 そのせいで、練習時には、どーにもスッキリと爽快感を味わえないで、悶々とひたすら急斜面で上体を落下方向に向けて練習する毎日である。

スタート直後スケーティングと上体もストックを突いて漕ぎ加速していく。
スタートから見える旗門は2走旗。その先は急斜面で滑り出しは見えない。
練習前にインスペクション(コース下見)でゲート(旗)セットは確認しているので、迷わず急斜面へと突入する。
 急斜面最初の3走旗は滑走ラインを上の方から早くターン体勢で入り、3走旗横でターンマックスを迎えるイメージ。よし!スキー板は撓っている。
 スキーの撓りを開放し4走旗に向けて加速していく。悪くない!
 が、思ったよりもスキーの走りが速い! 少し上体が遅れたかも・・・
 またコーチに体を落とし込めと言われるのではないか。
 しかし5走旗目の前には既に高い位置でターンの導入体勢に入れていた。
 まー問題ないかな。コーチも今のは分からないだろう。と思った時である。
「このヘタレ――― ! 上体が8㎜遅れているぞ! コラー、聞こえているのか返事しろ!」
 この野郎! この声は彩菜! この状態で返事できる訳ないだろ!
 どうやら彩菜は隣のスラロームの練習中で、順番待ちのようだ。
 腹は立つけど、今の上体の遅れを見過ごさなかったのは、やはり確かな目を持ってやがる。8㎜の見分けはありえんが。
 実際この一本を滑り終わってコーチのアドバイスは『スキーが走っていて何時もより良い』とのアドバイスだったからだ。
 今日もやっぱりスッキリと爽快感を味わえない、悶々とした練習であった。
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