最後の初恋
 ふと隣のスラロームのポールバーンを見ると、全身が鞭のように撓り全く無駄な動きがなく綺麗に躍動する彩菜の姿があった。
 悔しいけれど、美しくて速い。
 やっぱり俺はヘタレなのか・・・
 
  *****

「優人はホントにヘタレだな!」
「うるさい!黙れ。これでも微妙にへこんでいるんだ」
部活が終わって帰り道。
こいつには裏表がない。でも何でも思った事を口にするのはやめて欲しい。
「だいたい身長153㎝、体重**㎏の私に、つい最近までSL(スラローム)もGS(ジャイアントスラローム)も勝てなかったんだからね」
 体重は過少申告だろう。
 しかし、彩菜の言うとおり、俺の身長は170㎝、体重55㎏で男子のレーサーとしては貧弱ではあるが、この体でようやくこいつにタイムが追いつくようになったのである。謂わば、体重が重い分スピードが速くなっただけで、技術的には完敗のままである。
「お前ね、もっとデリカシーがないのかよ」
「今日もGSの急斜面で8㎜ビビッてたでしょう?」
 8㎜なんか分かるはずないだろ。でも上体が遅れたのは確かだ。悔しいが。
「3㎜だけだ」
「優人のメンタルがね」
「どんだけチキンなんだ俺は」
「何故あそこで上体を下に落とせないかな?」
「いや、普通怖いだろ。スピードに乗った急斜面だぞ」
「あ、3㎜チキン認めた!」
「あーチキンだが何か?」
「こー何て言うかな~、スピードが出てワクワクしないのかな?」
「ワクワクするにも限度があるだろう。あの斜面だと時速60㎞は出ているぞ。原チャリなら即免停だ」
「原チャリは雪面を走らない」
「それに急斜面の初盤、コースが狭くなっているところ、ネットを越えたら立木があるしな」
「ドーンとぶつかって行け!」
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