最後の初恋
だから俺が見とれるのも当然の事なのである。言っておくが、おっぱいが目的ではない。美奈ちゃんの人柄が魅力的なのだ。
「う~ん。すっごく理想なんだけどな~」
「そうだな~。優人って可憐な文学少女が好みだもんな。なんだっけ? 林檎の前の女の子だっけ?」
「ああ。『初恋』な」
「織田信長!」
「島崎藤村だ!」
「なんだっけ?」
「えーとだな、
『―――まだあげ初めし前髪の林檎のもとに見えしとき、前にさしたる花櫛の花ある君と思ひけり―――』
だ。この詩を聞いて、瑞々しい少女が林檎の木の前で佇んで、自分に向かってはにかんでいる姿が目に浮かんでこないか?」
「はっふ~豚まん最高!」
 豚まんのもとに見えしとき・・・げんなりだ。
 
 しかし、こいつも黙っている分にはそれなりの物は持っている。
 普段はスキーでヘルメットを被るからただ束ねているだけの時が多いが、髪は風になびくと綺麗にサラサラするロングの黒髪で、目はくるっとした二重。頬は何度もつねった事がある程ぷにゅぷにゅの卵型。髪をポニーテールにしている時は、クルクル動き回る小動物といった感じだ。
 可愛いタイプには持ってこいの物件であるはずである。
 がしかし、あくまでも黙っていればの話だ。
 こいつは口を開けば誰ともなしに思った事を口にする。
 まあ、裏表がなく憎めないのか男女構わず誰とでも話をし、友達も多いが、女としては引き合いがあまり無いらしい。
 いや、引き合いがあった事を聞いたことはない。
 本人も余り男に興味は無いのか、全然色気づく気配もない。
 俺もこいつを記憶の初めから知っているだけに物件として見られない。
 そりゃそうである。女の子が絹一枚まとわぬ姿で走り回っている姿が今でも思い浮かぶのである。いったい何歳までやるんだというくらいにだ。
 やっぱり豚まんのもとに見える女より、林檎のもとの高嶺の花に憧れても罪ではないだろう。
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