最後の初恋
「ふふふ、優人ってチャレンジャーね」
「何だよ?」
「何でもないわ。人生苦い経験も大切よ」
「それって、俺が振られるの前提じゃないのかよ」
「あら、あんた勝ち目があるとでも思っているの?」
「それが母親の言うことか?」
「オンナノカンよ」
 おばはんにオンナノカンなんてあるのかよ。
「彩菜ちゃん。優人が振られたら慰めてやってね。この子ヘタレだから」
「うん。優人のヘタレは慣れてるから」
「でも優人も浮気者ね」
「何がだよ?」
「小さい時には彩菜ちゃんをお嫁さんに貰う!」って言ってたくせに。
「あー聞いたことある! そうよ、優人。私にプロポーズしてくれてる!」
「覚えてない!」
「おばちゃん、優人ね私を捨てて美奈のおっ・・・」
「がー! 分かった! 彩菜がもし、仮に、万が一にでも結婚できないで売れ残ったら俺が貰い受けてやる!」
「よーし。ちゃんと聞いたからね。私が売れ残った時の保険として、それまで優人は結婚しちゃだめよ!」
「あー分かった!」
 こうなったらヤケクソだ!
「でもその前にイケメンが見つかったら、優人は他の娘を探してね」
「ほんと俺ってヘタレ扱いなのな」
 いつもだ。幼い時から彩菜のペースで掻きまわされっ放しだ。
 思いついたことは即口にして、相手の都合も何もあったもんじゃない。
 今も放っておけば何を言い出すか分かったもんじゃなかった。
 でも、こいつの周りには何時も笑顔がある。こいつの頭の中は毎日がお祭りで前向きでアホみたいに明るいことばかりなのか、周りの雰囲気も明るくしてくれる。
 こうして家にいてもほんとの家族みたいに当たり前のように振る舞い、屈託のない笑顔で溶け込んでいる。
 今も晩飯が終わり母親と台所で洗いものをしているが、俺が見ていても普通の親子の風景である。
 こんなことが自分の意識の始まりから続いているのである。
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