8月のミラージュ 【ママの手料理 番外編】
俺は、返事の代わりに親指を立てて見せた。



1つだけ口に入れたはずなのに、今では3つ目のうさぎの形のマカロンを口に入れてしまっている。



俺達のやり取りを見ていたチビは、声を上げて笑いながら、



「私も食べる!」



と、カッパの形のアニマルマカロンの封を切って口に入れた。




それを見て、思わず笑みが零れた。



つい最近までずっと泣いていたのに、彼女はいつの間にか俺達家族の中の誰よりも笑う様になった。



別にそれは、気が緩んだとか、調子に乗っているとか、無理に明るく振舞っているとか、そういうものでは無いと思う。



この姿こそが、彼女の本来の姿なのだろう。



つい半年程前に、彼女はお金の為なら殺人も平気で犯す怪盗グループ、“OASIS”に自分の人生を壊された。



本当に、グループ名がいかれていると思う。


何がOASISだ。


当たり前だけれど、俺達の怪盗グループ名、“mirage(蜃気楼)”よりも酷い。



何故その名前にしたか、ネーミングセンスを尋ねたい名前だ。



簡潔に言うと、彼女はOASISに自分の家族全員を殺された。



だから、チビはこの家に血だらけで来たのだけれど。



ほとんど毎日泣いているし、寝ている最中もずっと親や幼い兄妹の名前を呼んでうなされていて、本当に凄く弱々しかった。
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