8月のミラージュ 【ママの手料理 番外編】
「フランスで起こったやつはフランス革命。イギリスで起こったやつは産業革命。歴史は覚えて損は無いよ」



洋服をパタパタと揺らして身体に風を送りながらアニマルマカロンを褒め称え、湊に突っ込まれていた。



しかし、そこでまた新たにお客さんが来店して。



「いらっしゃいませー」



湊は、慌ててレジのほうへ向かって行ってしまった。



もちろん、何があろうと断じて接客をしたくない俺は、特にお客さんに目を向ける事なく新たな猫の形のマカロンを噛み砕く。



銀ちゃんって本当面倒くさがり屋だよね、と苦笑したチビは、不意に不思議そうな顔をして俺に尋ねてきた。



「そう言えばさ、何で怪盗の名前が“mirage”なの?何か理由でもあるの?」



「理由って…、逆に無い事なんてあるのかよ」



お前声でけぇよ、と俺は顔を歪め、もう1つアニマルマカロンを手に取って口を開いた。



「…そもそも、mirageってのは、英語で“蜃気楼”って意味なんだよ。ほら、特に今の時期…8月とかに海なんかであるだろ、遠くの物体が浮き上がったり逆さまに見えるあの現象」



これは基礎知識な、と俺は一息ついてまた話し始めた。



同じタイミングで、彼女はタピオカを勢い良く吸い込んだ。
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