8月のミラージュ 【ママの手料理 番外編】
「でも、実際はそこにそれは存在してない訳だろ、蜃気楼がそうやって見せてるだけだから。…だから、蜃気楼で見える景色は幻なんだ。似たものはあるだろうけど、それ自体が本当にあるかどうかは分からない」



そこまで聞いて、紫苑は分かりやすく首を傾げた。



良く分からなくなってきているようだ。



けれど、それにお構い無しで俺は説明を続ける。



「この世界は、夢で出来てる。1人1人の夢と希望と、幻と…。つまりは、綺麗事だな」



彼女は、何も反応を示さない。



ただ、真剣な顔をしてこちらを見つめている。



「でもよ、別に綺麗事で溢れてる訳じゃねぇだろ?たまには悪事とか、憎しみとか…、そういうマイナスな面も、この世界では働いてる」



(mirageにした理由、随分説明が難しいな…。誰だこれ考えた奴)



俺は、内心ぼやいた。



「んで、人の心に残るのは、その負の面だけなんだ。…でも、俺らは…。例え夢でも幻でも、次の日目を覚ましたらほとんどの人が忘れちまってるかもしれねぇけど、それでも、誰かの心に残りたいんだ。そういう存在でありたいんだ」




俺ら家族の中には、その存在すらも否定された奴が居る。



自分という存在に何度も疑問を持ったり、複雑な思いを抱えた奴も居る。
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