泣いた、緋鬼
切なく懇願するような声に、思わず足を止める。




「―――お願い……、こっちに来て……」




「……」

その声に引き寄せられるように、向きを変えて再び窓に向かって歩きだす。




なんかわからねぇけど、この声に背けば、後悔するような気がして――――。




ふわり、とカーテンが風で揺れて、俺を呼んだ声の主と目が合う。





――――瞬間、時が止まったかのような錯覚に襲われた。




俺を呼んだ声の主は―――、とんでもなく美しかったから。




さらさらと流れる綺麗な長い黒髪。

潤った円らな瞳。

プックリとした薄紅色の唇。




色白で穢れを知らなそうな柔らかそうな肌――。




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