泣いた、緋鬼
ここにいない希くんに、伝えてあげたい。

母は考えるような仕草をすると、割りきったように息をはいた。

「…ごめんなさい。てっきり、[鳳凰]だと思って酷いことを言ってしまったわ…。それに、叩いてしまった…」

母が謝ると将太さんはふるふると首を横に振った。

「いえ。総長の恋人を守るのは族全体の役目です。それを守りきれなかった俺たちは言われて当たり前のことです」

ツゥっと涙がこぼれた。

自分でも、何でか分からない。



でも、この人たちの優しさみたいなものはすごく感じて、それがすごく嬉しかったんだ――。




母は眉を下げると、「[幻夢]っていう名前なのね……」と呟いた。
< 158 / 170 >

この作品をシェア

pagetop