泣いた、緋鬼
病室に響くくらい大きな声で言うと、彼はバタバタと慌ただしく走っていく。

「………」

その背中を見つめながら、ほんの少しだけ罪悪感がわいた。

彼の気持ちに何となく気づいておきながら、どこかで気づかない振りをしている。

彼だって、私が恋愛できないのは重々承知のはずだ。





「―――未菜、居る?」





突然聞こえてきた希くんの声にはっとする。

いけない、トリップしていた。

「居るよ」

私が答えると、希くんはひょっこりと窓から顔を出して、それから窓枠を乗り越え、中に入ってくる。





「―――今日は普通に入ってきたんだね」





前回の事を思い出して少し意地悪に言うと、希くんはプイッと赤くした顔をそらした。
< 59 / 170 >

この作品をシェア

pagetop