敏腕社長は哀しき音色に恋をする 【番外編 完】
それから時間がゆるすかぎり、2人でウィンドウショッピングを楽しんだ。
恭介さんは、自然と手を繋いでくれた。

服に鞄に、見るたびに「華に似合いそう……」と呟くものの、私の顔を見てはグッと我慢しているようだった。
なんだか、社長としての恭介さんとのギャップがありすぎて、かわいく思えてしまった。


誰かとショッピングを楽しむなんて、いつぶりだろう……

ああ、あの時も……
姉の留学が目前に迫ったあの日、事故にあう直前も、2人でショッピングを楽しんでいたなあ。
思い返すたびに胸が苦しくなっていたのに、どうしてだろう……今この時に思い出すのは、「華とおそろいで嬉しい!」って喜ぶ姉の笑顔ばかりだ。



「華、何を考えてるの?」

恭介さんが、私の顔を覗き込んできた。

「思い出していたんです。姉が事故にあったあの日を」

「華、大丈夫?」

恭介さんが心配そうな顔をして、繋いでいた手にぎゅっと力を込めた。

「大丈夫です。
これまで、あの日を思い出すと苦しくて仕方がなかったんですけど、今は違ったんです。事故にあう直前まで、姉とショッピングやお茶を楽しんでいたことを思い出しました」

「華……」

恭介さんが優しく微笑んだ。

「恭介さんが味方をしてくれるからですね」

「そうだよ、華。僕は華の味方だ」

そう行ってしっかり抱きしめてくれた。
恭介さんの腕の中は、温かくて安心する。
私はこの温もりを離したくないと強く思った。
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