敏腕社長は哀しき音色に恋をする 【番外編 完】
「素晴らしい……」
「惚れ惚れする演奏だ」
最後の音が消えると、たくさんの拍手に囲まれた。
いつもなら、間をおいて2曲目を弾き出すところだけど、これだけはピアノではなくて、自分の言葉で伝えたい。
さっと立ち上がって恭介さんの方を見ると、恭介さんも立ち上がった。
「なんだ?」
「今夜の演奏はこれで終わりか?」
なんて声が聞こえる中、私は恭介さんの方へ歩みだした。
恭介さんもまた、こちらへ向かってくる。
ざわざわしていた店内が、急に静まり返った。
「恭介さん」
「華」
恭介さんは片膝をつくと、小さな箱を私の前に捧げるように持って蓋を開けた。
「華。華の気持ちはしっかり伝わったよ。
神崎華さん、僕と結婚してください」
「はい。よろしくお願いします」
恭介さんは、そっとピンクゴールドの指輪を私にはめると、そっと口づけをして私を抱きしめた。
一瞬間をおいて、周りから拍手が起こった。
それはだんだん広がって、大きな音の波になっていく。
「おめでとー」
いろいろな方から、祝福の声が聞こえる。
祝福ムード一色になった店内に、オーナーの柿本さんも出てきた。
「神崎さん、おめでとう。
みなさん、素晴らしい夜に、お店からみなさんにお祝いのカクテルをプレゼントさせていただきます」