敏腕社長は哀しき音色に恋をする 【番外編 完】
翌朝のこと。

「華、今日は引っ越しだ。華の荷物をここへ運ぶよ」

「えっ?今日ですか?そんな急に……」

「言ったはずだよ。僕はもう、一時も君と離れていたくないから」

「はい。でも……」

「大丈夫。優秀な僕の秘書の長谷川が、とっくに手配してくれてる。
もうすぐ華の部屋の鍵を取りに来るから、用意しよう」




恭介さんの言った通り、それから1時間もしないうちに長谷川さんがやってきた。

「社長、おはようございます」

「おはよう。休日なのに悪かったね」

「これで社長が無理な働き方をしなくなるなら、かまいませんよ」

そう苦笑しながら言い、私の存在に気づくと、

「神崎さん、おはようございます」

と、声をかけてきた。

「お、おはようございます。すみません、私のことなのに……」

「ああ、気にしないでください。あなたの存在のおかげで、ここのところ社長は本当に生き生きしているんですから。
あの仕事一色だった社長が、あなたのために動かれる姿を見て、私は安心しているんですよ」

「余計なことは言わなくていいから」

「ははは。社長でもそんな照れた顔をするんですね」

ほんのり耳が赤くなった恭介さんを見て、長谷川さんはなんだか楽しそうにしている。
2人の付き合いは長く、気心が知れているらしく、仕事以外の時はこうして恭介さんが砕けた口調になるらしい。

「それでは、あとはお任せください」

「よろしくお願いします」
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