敏腕社長は哀しき音色に恋をする 【番外編 完】
番外編3

敏腕社長は妻に諌められる

結婚してからの恭介さんは、ますます私に対してあまい。
あまいというより、過保護だ。

入籍してすぐに社内に公表したため、私の立ち位置はすごく微妙だ。
何となく、周りに気を遣われているような……


「神崎さん……じゃなくて須藤さん、この資料を……って今渡すと定時が……」

「川本君、大丈夫です。やっておきますよ」

「本当?助かるよ。……あっ」

そう言って、私の後ろを見て固まった川本君。
私も目を向けてみると……

「きょ……社長。どうしました?」

「ん?今日は定時少し後に帰れそうだから、華を夕食に誘おうと思って、帰社したついでに寄ったんだよ」

「社長!すみません。
須藤さん、この資料はいいよ。自分でやっておくから」

「あっ、ちょっと、川本君待って」

「川本君、それって明日でも大丈夫な資料ですか?」

「は、はい。そうですが」

「それなら華、やれるところまでやって、あとは明日やればいいよ。
川本君、華が社長夫人だからって遠慮することはない。今まで通りに接してください」

「は、はい。
それじゃあ、須藤さんお願いします」

「はい。
それじゃあ恭介さん、お仕事が終わったら連絡してね」

「ああ、そうする。じゃあ華、また後で」

恭介さんがその場を去ると、空気が少しだけ緩んだ。
これまで社長が顔を出すことは、それほどなかった。
もちろん、要所要所で顔を出して現場を引き締めることはあったけど、私と結婚して以来、ちょっとした用で顔を出すことご増えた。
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