敏腕社長は哀しき音色に恋をする 【番外編 完】
「いただきます」

仕事を終えて、近くのイタリア料理店に来ていた。


「恭介さん」

「ん?何?」

「あのぉ……恭介さんって、私と結婚して以来社内を見回ることが増えてるよね?」

「んー確かに増えてるよ。長谷川にもよく、今は社長室から出るなと言われることが増えた……かな?」

「どうしていろいろな所に顔を出すようになったの?」

「そんなの決まってるよ」

そう言うと、恭介さんは真剣な顔をした。

「華のことを狙うやつがいるといけないから、牽制しに行ってるんだよ」


はっ?
言われていることを理解するのに、数秒かかってしまった。


「それが理由?」

「もちろん、そうだよ」

「恭介さん、よーく聞いて。私を狙ってる人なんているわけないから」

「そんなことはわからない。だって華は、とっても魅力的だから」

思わず真っ赤になってしまった。

「恭介さんの私に対する評価は、かなりずれてると思う。とにかく、そんな人はいないし、万が一いたとしても、私は恭介さんだけを愛してるから心配しないで」

「でも……」

渋る恭介さんに、さらに続けた。

「それに、今日の川本君もだけど、私に対してこれまでと違っていらない遠慮をしてしまうの。私はこれまで通り、普通がいい。
だから恭介さん、会えるのは嬉しいけど、顔を出すのはほどほどにお願いしたいなあ」

恭介さんは、なんとなく納得してないような表情だったものの、諦めたように言った。

「わかったよ。華を困らせたいわけじゃないから、気を付けるよ」


それから恭介さんは言葉通り、顔を出すことを控えてくれた。
おかげで、職場でのぎくしゃくした感じも随分なくなってきて、平穏な日々がもどってきた。


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